生成AI時代の人材採用戦略とは
仁科 学生や若手社員たちが生成AIを使いこなしているのを見ると、頼もしいと感じる半面、いい問いを立てる力が失われはしないかと心配になることがあります。生成AIを使えば、オペレーションが固定化されている仕事をこなすことはすぐにできるようになりますが、じっくりと考えて、人が共鳴するような「問い」を立てられなくなるという危惧があるからです。
山口 たぶん、それはいまに始まったことではなく、ここ半世紀くらい続いてきた流れだと思いますが、生成AIがそれを加速させているように私も感じます。
私自身もリサーチや原稿のドラフト作成に生成AIを活用しています。たとえば、夜中の3時にアイデアがひらめいた時、生成AIに聞けばすぐに答えを返してくれますが、これを人間相手にやったら完全にパワハラですよね。生成AIは、「知性のサブスクリプション」サービスといえるものです。
多くの企業は「優秀な学生がほしい」と言いますが、そこで言う「優秀」とは、偏差値が高く正解を出せる人を指すことが多い。しかし、正解は生成AIを使えば簡単に出せる時代です。AIの利用コストがこれだけ下がっているのに、正解を出すためだけに人を大量一括採用するのが、本当に正しいことなのかという問いが生まれます。
仁科 その点は、社内でかなり議論しました。我々自身、AIを日々使い込み、何ができて何ができないかの限界を探っています。そのうえで、それでも「この人の成長にコミットしたい」と思えるような、人間的なチャーミングさを重視した採用に切り替えました。

プレイド STUDIO ZERO 代表。NTTドコモ、セールスフォース・ジャパンで営業職やカスタマーサクセスを経験後、2017年CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドに参画。営業組織をリードしつつ、早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。PR TableにてCFO/CPO(チーフプロダクトオフィサー)として企業経営に従事したのち、2021年4月プレイドに復帰。企業・組織の新規事業創出や既存事業の変革を支援する社内起業組織「STUDIO ZERO」を立ち上げ、代表に就任。2024年より現職。
山口 人の「チャーミングさ」というものを、どのように判断しているのですか。
仁科 チャーミングさの定義を言語化しています。たとえば、「しっかりとした個人の野心を持っているか」「失敗を恐れないか」「瞬発力があるか」など、6つほど要素があると考えています。これまでの経験を聞いたり、さまざまな問いかけをしたりしながら、その人のチャーミングさを見極めています。
山口 ある大手弁護士事務所で聞いた話ですが、司法試験の成績などを優先する採用基準を改めて、「この人と一緒に仕事がしたい」と思わせるような人間的魅力をかなり意識した採用を行っているそうです。
採用基準の見直しは、調達戦略の再定義ともいえます。野球映画『マネーボール』は、資金力のない球団が、金持ちの強豪球団に対抗するために選手のスカウト基準を見直し、やがて優勝を手にした実話に基づいています。映画では「本質的な物差しは何だろうか」と考え直し、違う基準で選手を選びました。
野球は、アウトカウントが増えるごとに得点の期待値が減ります。ということは、最もいい選手はアウトになる確率が低い選手であり、それは必ずしも打率が高い選手やホームランが多い選手ではない。野球用語で言えば「出塁率」の高い選手です。出塁率は高いが打率はそれほどでもない選手は、従来の基準では見過ごされていました。その高品質なリソースを、新しい物差しで獲得する調達戦略を採ったわけです。
テクノロジーや社会の変化を考えると、求める人材の基準も5年後、10年後には変わってくるはずです。だからこそ、将来の事業や社会のあり方から逆算して、いまどういう人を採用すべきなのかを、新しい物差しで選ぶことが重要になります。