言葉の定義をはっきりさせる

「ビジネスモデル」は、インターネット・ブームのおかげで大流行した言葉の一つである。この言葉は、作家のマイケル・ルイスに言わせれば「いい加減なプランにもったいをつけるため」に毎日のように引き合いに出される。

 企業には、戦略も、特殊な能力も、それどころか顧客すらも必要ではなくなった。唯一必要なのは、ウェブを利用したビジネスモデルだけだ。それも、大雑把で、利益の見通しもはっきりせず、未来を漠然と示すものでよい。

 投資家から起業家や経営者に至るまで、たくさんの人がこの言葉に踊らされ、夢を買い、そして火傷した。やがて、当然のことながら反動が起き、ビジネスモデルのコンセプトは、ドットコムの名称と相前後して流行遅れになってしまった。

 これは、まったく残念なことである。たしかに多くの資金が出来の悪いビジネスモデルに投じられたことは否めない事実だ。しかし、間違っていたのはビジネスモデルのコンセプトそのものではなく、その誤解、あるいは誤用である。

 組織が成功するには、優れたビジネスモデルがいまなお必要不可欠なものだ。この事実は、新興ベンチャーでも老舗企業でも変わらない。

 ただしマネジャー諸氏は、実際にこのコンセプトを用いる前に、まず語義のあいまいさを払拭し、シンプルかつ御利益のある定義をはっきりさせておく必要がある。

トラベラーズ・チェックの成功物語

「モデル」という言葉は、難解な数式だらけの黒板を思い起こさせるかもしれないが、ビジネスモデルにまったく難解なところはない。ビジネスモデルとは、端的に言えば「物語」、つまりどうすれば会社がうまくいくかを語る筋書きである。

 優れたビジネスモデルは、ピーター・ドラッカーの古くて新しい質問である「顧客はだれで、顧客価値は何か」という質問に答えるものだ。また、マネジャーが避けては通れない基本的な質問である「どのようにこの事業で儲けるか、どのような論理に基づき、適切なコストで顧客に価値を提供するか」にも答えてくれるだろう。