聞き上手になれない5つの原因

 従業員が、上司や経営幹部に自分の考えや心配事をきちんと聞いてもらえていると感じていると、仕事上の人間関係が強固になり、エンゲージメントが向上し、パフォーマンスの改善につながることが多くの研究で示されている。だからこそ、上司は直属の部下と定期的に1on1を行い、新任の部門長は各職場を行脚して従業員の声を聞き、CEOは全社員対象の会合やタウンホールミーティングを開催するのだ。

 しかし、研究によれば、こうした取り組みを行っても効果が見られないことが多いという。その理由の一つは、単に、多くのマネジャーが聞き上手でないことにある。筆者らが、職場での傾聴に関する117本の学術論文[注1]について包括的なレビューを行ったところ、個人の会話であれ、チームや大人数での会議であれ、この傾聴というスキルは「言うは易く行うは難し」であることがわかった。

 なぜだろうか。それは、傾聴が共感、忍耐、相手の話に反応する力を必要とする、意図的な行動だからだ。そして、とりわけ話題が複雑であったり感情的になりやすいものであったりすると、精神的な負担が大きく、人々はしばしば手抜きをしたり、完全に上の空になったりする。

 グーグルの全社TGIF(Thank God It's Friday)ミーティングの例を見てみよう。これは長年にわたり、公開フォーラムの形で隔週開催され、経営陣が最新情報を共有したり、戦略的な展開について話をしたり、従業員からの質問に答えたりする場だった。同社の信頼の文化を維持するうえで重要な役割を果たしていたのである。グーグルの元人事担当シニアバイスプレジデント、ラズロ・ボックがかつて語っていたように、このミーティングは「カフェのメニューがヘルシーすぎるのではないかといったことから、特定の国や製品に関する戦略が善か悪かという非常に高尚な問いまで、ありとあらゆる話題」をカバーしていた。

 しかし2019年、グーグルのCEOであるサンダー・ピチャイは、もはやこのミーティングが機能していないと判断した。従業員がヘイトスピーチやセクハラに対する会社の対応など、紛糾しやすい問題について話をしたがり、そうした議論の内容がしばしば報道機関にリークされたのだ。ピチャイはミーティングの開催頻度を減らし、その形式も変更した。すべての人の意見に耳を傾けることが、もはや難しくなってしまったようだ。

 これと似たようなことが、ゲーム会社のアクティビジョン・ブリザードでも起こっている。ハラスメント訴訟についてタウンホールミーティングで説明を行ったところ、大規模なストライキを引き起こす結果になったのだ。従業員は、経営陣が彼らの懸念に真剣に向き合わず、むしろ問題を矮小化していると不満を訴えた。また、アマゾン・ドットコムでは、従業員の感情を理解するために行われている毎日のアンケートが、肯定的な回答を求める上司からのあからさまなプレッシャーや、回答の匿名性が本当に保たれているのかという不安によって、ゆがめられていると従業員が訴えた。

 筆者らの研究では、どれほど善意にあふれたリーダーであっても、人の話をうまく聞けていないことがあるとわかった。そして、そうした失敗をもたらす最も一般的かつ深刻な5つの原因として、「焦り」「防御的態度」「見えにくさ」「疲労」「何も行動しない」が挙げられることを特定した。本稿では、これらの落とし穴を回避し、チームメンバーが求めるような聞き手になるにはどうすればよいかを解説する。

1. 焦り

 2023年4月、インテリア家具ブランドを展開するミラーノルの社長兼CEO、アンディ・オーウェンは、オンラインでタウンホールミーティングを開いた。開催に当たり、彼女は従業員の士気が低いことを心配していた。従業員が(彼女自身もそうだが)その年のボーナスを受け取るためには、会社が収益目標を達成しなければならなかったが、売上げは思わしくなかった。しかし、オーウェンは、最後の一押しがあれば、従業員たちは結果を出せると信じていた。