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アナリストの予想と寸分違わずに達成したい四半期利益
スミスクライン・ビーチャム(以下スミスクライン。現グラクソ・スミスクライン)傘下のベンチャー・キャピタル部門であったSRワンは、2000年秋、所有するバイオテクノロジー関連株の値上がりによってかなりの含み益を得た。SRワン社長ブレンダ・ギャビンは最高値のタイミングを見事に見極め、株を売却してスミスクラインに(というよりその株主に)相当の棚ぼた的利益をもたらそうとした。
しかし、この話を聞きつけた本社幹部は、即刻その計画にストップをかけたのである。ギャビンによれば、本社からの通達メッセージは、「これ以上1セントたりとも利益を出すな」というものだった。
確実な利益獲得チャンスを企業がみすみす逃すはずがない、と思うかもしれないが、企業国家アメリカにおいては実はよくある話だ。
「数合わせ」、すなわち証券アナリストが予想した通りの四半期利益を実際に出すため、利益に大きく影響する取引を意図的に避けることがしばしば行われているのである。
なぜか。先の例で言えば、スミスクライン本社の経理部門にとって、アナリストが予想したEPS(1株当たり利益)を1セントの違いもなく達成しなくてはならない動機が、少なくとも2つあった。
第1に、「業績数値を合わせる」ことで、「スミスクラインの主要事業が戦略通り順調に進展しており、事業環境にも大きな変化がない」というメッセージを投資家に発信できる。
第2に、2000年第4四半期の利益がアナリストの予想を超えてしまうと、翌2001年第4四半期の予想達成がそれだけ困難になるというものである。
つまり、多くの企業にとって、アナリストの予想通りに滑らかな曲線を描いて着実に利益を伸ばすことは、株主に最大の利益をもたらすという責務をも超える重要性を帯びてしまっているのだ。これが、ギャビンに数百万ドルの利益を上げるチャンスを見送らせることになった理由である。
スミスクラインの行動(あるいは行動の回避)は、「利益ゲーム」とも言うべき習慣の一つの表れにすぎない。いまやこのゲームのプレーヤーは、証券アナリストから投資家、監査法人、企業そのものにまで及んでいる。だれもが四半期利益の数字に大きな影響を受けざるを得ない。予想通りの利益を上げれば株価の大幅な上昇につながるが、わずかでも予想を下回ると急落を招く可能性が高い。
企業幹部の報酬は株価と利益目標に連動している場合が多く、アナリストの収入と信用は企業の四半期利益をいかに正確に予測できるかにかかっている。投資家の利益、あるいは少なくともトレーダーの利益は、四半期利益を達成できる企業とできない企業を見分けることによってもたらされる。