「場」とは何か

「知識」が今日の経済を動かしている。企業の多くがこの事実を踏まえて、たゆまぬ努力を重ねている。

 そこでは、複数の部署を横断する「チーム」や、顧客別や商品別にくくられた「ビジネスユニット」「ワーキング・グループ」などの組織形態を用いて、アイデアやノウハウの結集と共有を図っている。

 たいてい、これらの組織形態で事足りており、不必要を唱える人などどこにもいない。

 その一方、従来の組織構造をより補完し、知識の共有・学習・更新を劇的に活性化するような、新たな形態が生まれてきている。これが「場」(communities of practice)である[注]。

 では、場とは何か。簡単に言えば、共通の専門スキルや、ある事業へのコミットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々のグループと言える。

 たとえば、井戸を掘削するエンジニアのグループ、戦略的マーケティングを専門とするコンサルタントのグループ、大手商業銀行で小切手の処理に当たる現場のマネジャー・グループなどである。

 場には、たとえば木曜日の昼食時など、あらかじめ日時を決めて定期的に会合するケースがある。あるいは、電子メールを介してつながっているものもある。

 また、週ごとに決まった議題を掲げることもあれば、ないこともあり、議題があっても厳密にそれに従うわけでもない。そのため、場に集まるメンバーは、自由かつ創造的に経験や知識を分かち合うようになり、新しい着想も生まれやすい。

 場の成果は、目には見えない「知識」や「ノウハウ」であることが多いため、表れては消える流行ものに見えるかもしれない。しかし、それは違う。

 ここ5年間で、場によって組織効率が改善された事例を見ると、グローバル・バンクをはじめ、大手自動車メーカー、アメリカ連邦政府の省庁に至るまで、実に多彩な組織で登場している。