イノベーションのチャンスを広げる新しい実験技術

 実験なくして、イノベーションは実現しない。アイデアを体系的に検証して初めて、製品の開発や改良が可能となる。すばらしいアイデアも、実験というプロセスを経ないことには、製品化はありえない。

 ある規模以上の開発プロジェクトになると、必要な実験の数は数千に上ることがあるが、その目的はただ一つである。製品コンセプトやテクニカル・ソリューションが新しいニーズや問題に対処できるかどうかを確かめ、そこから得られた情報を次段階の製品テストに反映させ、最終的に理想の製品をつくり上げることである。

 従来はコストがかかりすぎるために、製品テストの種類や回数を制限せざるをえないケースがあったが、最近、状況は大きく変わっている。

 コンピュータ・シミュレーション、ラピッド・プロトタイピング(3次元CAD〔コンピュータ援用設計〕による試作品の造形)、コンビナトリアル・ケミストリー(多種類の物質を同時に反応させて多種類の生成物質を合成する技術)などの新しい技術により、短期間で多くの知識を得られるようになった。さらにその知識に基づいて別の実験を低コストで実施することも可能だ。

 情報をベースとした新技術は、生産システムや流通システムの限界コストのみならず、実験の限界コストも低減させているのだ。

 しかも、そのような技術を組み合わせた実験システムを用いると、コストが下がるだけでなく、イノベーションのチャンスも広がる。

 つまり技術のなかには、従来の実験手順を効率化するものもあれば、斬新なコンセプトやソリューションを見出すための新手法をもたらすものもあるのだ。

「実験新時代」の到来

 具体例として、ミレニアム・ファーマシューティカルズ(以下ミレニアム)の取り組みを紹介したい。

 ミレニアムでは、ゲノミクス(遺伝子レベルの解析科学)、バイオインフォマティクス(生物についての大量のデータをコンピュータで解析する科学)、コンビナトリアル・ケミストリーといった新技術を、実験用の技術プラットフォームに組み込んでいる。

 このプラットフォームを用いると、ごく短時間で新薬候補を創製・試験することができる。従来は少なくとも数日を要していたこの作業を、まるでファクトリー・オートメーション(FA)のように数分、あるいは数秒でこなしてしまうのだ。