昇進したら、以前の仕事にしがみついてはいけない
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サマリー:昇進したリーダーの多くは、前職での成功体験やアイデンティティを手放せず、新旧の役割の境界を曖昧にしてしまう。だが、自身と組織の成長のためには、慣れ親しんだ実務への執着を捨て、より戦略的なリーダーシップへと意識的に移行しなければならない。本稿では、昇進後の移行期間における混乱を防ぎ、旧業務を完全にチームへ委譲することで、新たな役割において高次元の成果を出すための5つの具体的な実践方法を紹介する。

昇進後の速やかな業務の移行がキャリアを加速させる

 昇進したリーダーは、新旧の仕事の境界を曖昧にしがちだ。昇進したのは前職で優れた働きをした証拠だが、その前職を手放しにくくなるのだ。それは仕事におけるアイデンティティの一部を手放すのに近い感覚かもしれない。だが、真に先へと進むためには、新旧2つの仕事をこなすのではなく、新しいレベルのリーダーシップに意識的に足を踏み入れる必要がある。

 本稿では、昇進後に完全な移行を果たし、それまでの仕事を完全にチームに任せるための5つの方法を紹介する。

1. 新しい職務の範囲と権限を明確にする

 上司はあなたが昇進した理由と、あなたが新たに監督する業務を明確に理解しているかもしれないが、あなた自身は理解していない場合がある。あなたの新たな権限の範囲と、自分以外の人が管轄すべきことを明確に把握する時間をつくる必要がある。

 筆者のクライアントのサマンサ(仮名)は、上司の退職に伴い経営幹部に昇進し、それまでと部門は同じだが、さらに幅広い業務も担当することになった。半年後、CEOから率直なフィードバックがあった。10年あまり昇進を重ね続け、その間は称賛されてきたが、今回は期待に応えられていないというのだ。

 問題は努力が足りないのではなく、新しい仕事に集中できていないことだった。サマンサは前職の一部を続けていて、誰かに任せるべき会議に出席し、後任が下すべき決定を下していた。新しい直属の部下はマイクロマネジメントされていると感じており、前職の後任はサマンサが自分に任せるべき仕事に干渉し続けることに不満を募らせていた。

 サマンサが正式に昇進した時、新しい仕事の範囲をきちんと確認していれば、混乱や怒りを避けることができただろう。そのためには、新しい上司に3つの質問をするとよい。

・この新しいポジションに、私はどのような価値をもたらすことが期待されていますか。

・私が担当する責任と成果は、どのように定義されていますか。