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GLP-1は我々の何を変えているか
ブロックバスター薬の革新が数十年にわたり人々の健康を改善してきた一方で、いま、オゼンピックやウィゴビーのような GLP-1受動体作動薬が、より広範な領域、すなわち消費者経済を変えている。もともと糖尿病向けに開発され、現在では減量目的で処方されることも増えているこれらの薬は、単に身体的健康や体格に影響を与えるだけではない。どのように食べ、買い物をし、動き、自分自身を認識し、意思決定を行うかといった集合的な行動を変革させ、ビジネスリーダーにとっても重大な意味をもたらしている。
初期の動きを見ると、GLP-1受動体作動薬は、主要な技術的革新に匹敵するほどに、消費者行動や経済の変化を引き起こしている可能性がある。たとえばオゼンピックに対する消費者の関心は、アイフォンや他の多くの人気テック製品の検索トレンドよりも速く拡大している。しかし、それらのデジタル革新とは異なり、この破壊は生理学的なものである。生物学から始まるこの変容は、これまでヘルスケアから切り離されていたカテゴリーへと連鎖し、食品、ウェルネス、美容、小売、旅行といった産業間の境界を曖昧にしている。
GLP-1薬はすでに家計の支出構造を変えつつある
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がニューメレーターの消費者データを分析したところ、GLP-1薬使用者は食べる量が減り、それに伴って全体の消費量も減っていることが示されている。米国の1万1000世帯以上を対象とした分析では、GLP-1薬使用者が食料品の購入を主に担っている世帯では、食料品支出が最初の12カ月間で6~8%減少していた。これは、通常ゆっくりと予測可能に推移するカテゴリーにおける急激な縮小だ。同時に、世帯全体の支出は2〜3%の減少に留まっており、節約分の一部が他のカテゴリーへ再配分されていることを示唆している。
食品購買をさらに詳しく見ると、GLP-1薬使用者はカロリーが高く利便性を重視した商品から、機能性があり栄養価の高い商品に支出するようになっているように見える。自分へのご褒美や衝動買い、購入頻度を基盤としてきたブランドにとって、これは単なるダイエットの流行ではない。購入量やロイヤルティに支えられた長年の需要モデルに対する直接的な挑戦となる可能性がある。
消費者のアイデンティティ、習慣、優先事項が再定義されつつある
GLP-1薬の影響は食品業界だけに留まらない。隣接するカテゴリー全体でも変化が表れ始めている。アパレルでは、治療開始からおよそ半年後に支出が実際に4~5%増加している。これは一部、洋服の買い替えによるものだが、多くの使用者は自信の回復や、内面と外見を一致させたいという思いを語り、 よりフィットした、表現力のある、アクティブなスタイルを選ぶ傾向が強まっている。この変化は単なる新しい外見以上のものを示している。それはアイデンティティ、ステータス、自己表現との新たな関係を反映している可能性があるのだ。
フィットネスでも同様の傾向が見られる。ジムの会員登録や機器の購入は治療初期に急増し、身体を動かそうとするモチベーションの高まりを示している。熱意はやがて落ち着く可能性はあるものの、より大きな流れとしては、健康やウェルネスの優先順位が再編されつつあり、パフォーマンス志向から日常的な習慣へ、憧れの姿勢から維持を重視する姿勢へと移行している。ただし人々の反応には幅があり、GLP-1薬の効果の高さから、むしろ運動量が減ったという人もいる。






