参謀とは「戦略実行の補佐」である

編集部(以下色文字):荒川さんは、ブリヂストン本社で社長を務められましたが、それ以前に社長直属の秘書、いわゆる「参謀」も経験されたと伺いました。つまり、トップとして参謀と仕事をする立場と、ご自身が参謀の立場に立たれた経験の両方をお持ちです。そうしたご経験から、参謀とは、どのような役割を担う人だとお考えですか。

荒川(以下略):参謀と聞くと、多くの方が「戦略を立案する人」をイメージするかもしれません。もちろんそれも参謀の仕事でしょう。ただ、私が身を置いた実際の企業経営の現場では、参謀がそうした役割を担うことはあまりありませんでした。特に大企業であれば、経営企画部のような専門部隊が戦略立案を行います。また大企業で経営トップになるような人は、当然、みずから基本的な戦略を持っていますから、参謀に戦略立案を任せるようなことはありません。

 では、参謀にはどのような役割が求められるのか。私は、参謀を「戦略実行の補佐」だと定義しています。ここでいう実行とは、現場を担う組織を動かして、結果を出すことを指します。どれほど優れた戦略でも、実行されなければ、絵に描いた餅。実行なき戦略は、戦略と呼ぶに値しません。

 私は40代初めの頃に、社長直属の秘書課長という、「参謀」の役割を担う職に就きました。社長に仕える中で、トップの求める参謀とは、どのようなものかがわかってきたように思います。つまり、参謀は、単なる補佐役や優秀な部下、能吏といわれる人とは違うということです。そういう人であれば、おそらく私よりはるかに優秀な人がいたはずです。それでも私が選ばれたのは、戦略を実行に移す補佐役として、適任だと思われたからではないでしょうか。

 もう一つ、参謀には重要な役割があります。それは、経営トップの不完全性を補う役割です。いくら優秀なトップであっても、直面する経営環境は日々変わりますし、イレギュラーな問題が次々と起こります。実際、重大な問題が起こると、役員会で真剣な議論が行われますが、そういう時、私はいつも秘書として陪席していました。

 私はその場で発言せず、じっと横に座って話を聞いているだけだったものの、議論の行き詰まりや盲点ができていることに気がつく場面もありました。なぜ、役員が揃っているにもかかわらず、そのような事態が起きるのか。それは、役員はみずからの担当部門に直接的な責任を負っており、それが足かせとなって視野が狭くなるからです。対して参謀には、役員と違い執行責任がありません。そういう立場ですから、第三者的に物事を考えられるわけです。

 そこで、議論の行き詰まりや盲点に気づいた時に、私が「この点はどうなのでしょうか」などとぽつりと発言すると、「そういう視点もあるな」と言われることがありました。こうして新たな視点を投げ込むと、トップのミスや思わぬ盲点をフォローすることにつながるのです。

 経営陣にはもっと視野を広く持って、全社的な立場で考えてほしいと思うかもしれません。ただ実際は、役員であれば、自分の担当部門への影響を考えてしまうものです。社長は全社的な視点を持っているとはいえ、会社の現実を理解してしまっているがゆえに、視野が狭くなります。そうすると、議論が不完全だったり盲点ができてしまったり、もっとよい案を見逃してしまったりするのです。

PHOTOGRAPHER  AIKO SUZUKI