サマリー:ここ数年、パーパスやミッション、ビジョン、バリューを策定する企業が増えている。しかし、それらによる「ブランディング戦略」がうまく行っている企業は必ずしも多くない。その原因と実行のポイントを探る。

ブランディングは企業の目指す方向を明確にし、商品やサービスだけでなく、組織としての意思決定や社員の意識・行動などのすべてに反映させる取り組みである。そこに一貫性を認めたステークホルダーは、その企業への信頼を高めるとともに、個性(らしさ)を感じるだろう。しかし、ブランディングに積極的な日本企業は多いとはいえない。ブランディングの意義、実践のポイントなどについて、一橋ビジネススクールの鈴木智子氏に聞いた。

「企業が創出する価値」と「企業としての個性」が必須

「ブランド」という言葉は、華美なイメージをまとっている。「ブランド=ラグジュアリーブランド」と捉える向きもある。一橋ビジネススクール教授の鈴木智子氏が指摘する。

「『ウチはブランドはやってない』と話す中小企業経営者もいます。意味するところは、『高級ラインの商品・サービスを扱っていない』ということでしょう。しかし、すべての企業がブランドを持っています。全体的に見て日本企業はその意識が弱く、戦略的なブランディングへの取り組みも不十分。対照的に、欧米企業は『自社ブランドを強くしよう』という意識が強い。ブランド力を収益力、成長力につなげている企業が目立ちます」

一橋ビジネススクール
国際企業戦略専攻
教授
鈴木智子
日本ロレアル、ボストン コンサルティング グループに勤務の後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士(MBA)、同博士後期課程(DBA)を修了。博士(経営学)。京都大学大学院経営管理研究部特定准教授などを経て、2023年より現職。専門は消費者行動論、マーケティング、デザインシンキング、ブランドマネジメント。経済産業省関連の委員や社外取締役を歴任し、国内外の学術誌や多数のメディアを通じて研究・発信活動を行っている。著書に『イノベーションの普及における正当化とフレーミングの役割』(白桃書房)など。

 ブランドとは何か。鈴木氏は「究極的には、ブランドは人々の心の中にあるイメージです。それが企業の考える『ありたい姿』に近いほど、ブランディングは成功しているといえるでしょう」と話す。

 ブランドには2つの必須要素がある、と鈴木氏は指摘する。「企業が創出する価値」と「企業としての個性(らしさ)」である。

「近年、パーパス経営が注目を集め、自社の社会的価値を明示する企業が増えました。ただ、その言語化において、一見美しいものの、他社と似通ったフレーズになっている事例も少なくありません。ブランドでも同様のことが起こりがちです。ブランドに求められるのは、自社が誰に、どのような価値を、どのような独自の方法で提供するのかを明確にすることです。だからこそ、ブランドには明確な『らしさ』と差別化要素が欠かせません」

 差別化の成功事例として鈴木氏が挙げるのが、アップルとユニクロである。

「ブランドとして大事にしていることを、製品やサービス、ステークホルダーとのコミュニケーション、顧客体験、日頃の行動にいかに一貫して反映させるか。2社はそのモデルケースだと思います。たとえばユニクロは、自社商品を『ライフウェア』として再定義し、高品質の製品を提供しています。ブレない信念を持ち続けることが、強いブランドを形づくります」