リモートワーク下で若手採用を見送ることのリスクと対応策
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サマリー:リモートワークの普及に伴い、企業は未経験の若手よりも即戦力の経験者を採用する傾向を強めている。背景には、かつて組織において対面で行われていた偶発的な指導や育成の基盤が損なわれたことがある。本稿では、有望な未経験人材の成長機会を阻む構造的要因を解き明かし、企業が持続可能な人材育成パイプラインを再構築するためのアプローチについて、具体的な処方箋を提示する。

若手か、経験者か

 ある採用担当者が、リモート職の採用をめぐって二人の候補者の間で迷っているとする。一人は新卒で若く、有能で意欲的、将来性にあふれている。もう一人は5年の経験があり、即戦力になる。少し前まで、企業は未経験者を優秀な社員に育て上げる自信があったため、思い切って若手を採用していた。適切なチーム、頼れるメンター、そして偶発的・非公式な学びの機会があれば、見込みある新人をハイパフォーマーに変えることができるからだ。

 『Administrative Science Quarterly』誌に掲載された筆者らの最近の研究によれば、リモート職に関して、企業は未経験者の採用を大幅に控えるようになっている。

 筆者らは、欧州28カ国の5000万件超の求人情報を分析し、さらに採用担当者と経営幹部ら計37人への詳細インタビューを実施した。その結果、リモート職か否かだけが異なる、同じ企業、同じ職種、同じ年の求人を比較すると、リモート職では、非リモート職よりもスキル、職務経験年数、学歴において一貫して約25%高い水準を求められていた。違うのは「働く場所」だけである。この傾向は、対照実験でも再現されている。オンラインで参加募集した1200人の採用担当者に、ランダムに「リモート」または「対面」と説明された職種について、採用要件を設定させたところ、結果は同じであった。「リモート」とついただけで、企業は多くのスキルと経験を要求したのだ。

 この要件の引き上げは、主に相互に強化し合う3つの要因によって生じている。つまり、応募者数の多さ、測定可能な資格要件への依存の高さ、そしてリモートワーク特有の教育の難しさである。

 最初の2つは自明だ。リモートワークへの応募者は自然と多くなり、対面職と比べて20%増から最大10倍にもなりうる。そのため企業は、単純に応募者を絞り込む目的で採用基準を引き上げる。そして、対面面接が少ないと、将来性や企業文化への適合性を直接評価する機会が減るため、企業は学位、資格、実績といった確認しやすい経歴をより重視することがある。このメカニズムを裏づけるエビデンスにはばらつきがあるものの、インタビューからは、求人票だけではわからない形でこれらの要素が採用判断に影響していることがうかがえる。

 しかし、筆者らが最も重大だと考え、リーダーがいますぐ認識すべきことは、リモートワークによってOJT(職場内訓練)が難しくなり、その結果として、採用担当者が経験者を求めるようになっていることだ。問題はリモートワークそのものではなく、企業がリモート職の採用においては、近視眼的な判断に甘んじていることにある。本稿では、なぜこの偏りが起こるのか、そして持続可能な人材育成の基盤を築くにはどうすればよいかを説明する。

リモートワークが未経験者の学習機会を損なう仕組み

 有望な未経験人材の価値が下がったのではない。インタビューに答えた採用担当者たちは、かつて未経験者の成長を支えていた組織基盤が、リモート環境では静かに失われていると語った。廊下での立ち話によって疑問が問題に変わる前に解消され、ミスが肩越しに修正され、先輩と一緒に働くことによって暗黙知が身についた。リーダーたちは、こうした日常の偶発的な学習機会は、リモートでははるかに再現しにくいと語った。ある採用担当者はこう述べた。「そのポジションには、その仕事を初めてやる人より、経験を積んだ人を採用すべきでした」

 新人を育てることが難しくなれば、企業はそもそもあまり育成を必要としない経験者を好んで採用するようになる。この懸念は、同じ変化を示唆する最近の研究によって裏づけられている。2019年から2024年にかけてフォーチュン500のソフトウェアエンジニアを追跡調査した経済学者らによれば、同僚の近くに座るだけで非公式なメンタリングの機会が増え、パフォーマンスが向上し、経験の浅い若年社員が特にその恩恵を受けていた。そして、オフィスが閉鎖されると、こうした機会がほぼ消失したことがわかった。さらに、米国の全国労働市場データを分析した研究者らは、パンデミック後、新卒者の失業率が大きく上昇したことを示したが、それはリモートワークが可能な職種に限られていた。

 筆者らの研究に参加した採用担当者の回答にも、リモート環境での教育の難しさが表れている。ある人事担当者はこう説明した。「リモート環境では、チームメンバーのスキルを伸ばしてくれるメンターを自然に見つけるのは非常に難しい。だから、リモートで働くなら、自分で何をすべきかがわかっている人でなければ」。別の回答者は、さらに赤裸々に次のように述べた。「特に入社直後の社員にとって、完全リモートは厳しいでしょう。普通は、キャリア初期の最初のいくつかの職場で、対面を通じて人との接し方を学んだり、相談できる相手を見つけたり、そうした漠とした経験の中で人間関係を築いていくものです。離れた世界に放り出されて『頑張って』だなんて、想像できません」

 教育の課題に加えて、リモートワークによる物理的な孤立が、パンデミックから何年経っても、特にキャリアの浅い労働者のメンタルヘルスに重大な悪影響を与えていることが、米国の労働者58万8000人を10年以上追跡した『サイエンス』誌の研究で示された。この層は、将来性よりも経験を優遇する雇用市場ですでに不利な立場にある。筆者らのインタビューでも同じ傾向が内部から語られた。ある回答者は、「カジュアルな交流や社会的なつながりを築く機会がなければ、上司や上の立場の人たちと信頼関係を築くのは難しい」と述べ、別の人は「全員がリモートの環境では、チームや文化の一員だと実感させることがはるかに難しくなる」と率直に語った。

 これらの研究が共通して示しているのは、リモートワークは明らかな利点がある一方で、若手が一人前の社員になるまでの学習、成長、関係構築のあり方を微妙に変えてしまうことによって、目に見えにくい深刻な影響をもたらす可能性があるということだ。これらは別々の課題ではなく、同じ増幅循環の一部である。リモートでの教育が難しいとなると、企業はますます経験者を採用するようになる。その結果、次の世代では、いままさに求められている経験を積む機会がさらに減り、そのうえ、メンター制度の弱体化、学習の停滞、孤立の増加により、成長と幸福感はさらに損なわれていく。

 いくつか留意すべき点を挙げておきたい。筆者らが分析した求人票データは、欧州の労働市場のものである。ただし、米国の労働者へのインタビューと実験でも基本的に同じパターンが示されている。また、筆者らが観察した影響は、完全リモートで最も顕著だった。筆者らのデータは、ハイブリッド職は完全リモート職よりも対面職にずっと近く、たとえ時々でも対面で会うことが、人材育成基盤の維持に大きく寄与する可能性があることを示している。社会的つながりやメンタルヘルスに関するエビデンスは、筆者らの研究ではなく、補完的に引用した既存の研究に由来する。そうした研究は一貫して強い相関を示しているが、リモートワークとの因果関係までは証明していない。こうした微妙な違いが重要なのは、主なリスクひいては介入機会は、特に若手社員を含む完全リモートチームにあることを示唆しているからだ。