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AI適応を妨げるのは誰か
企業がAIへの適応に苦戦すると、その原因はたいてい従業員にあると考えられる。従業員に必要なスキルがない、あるいは自分の仕事が奪われることを恐れているため、AIに抵抗しているのだと経営幹部は捉える。しかし、筆者らが3年間にわたり、欧州のITサービス企業11社を対象にインタビュー23件と、経営チームが参加するディスカッション形式のワークショップを3回実施した結果、AIへの適応を妨げているのは、経営チームそのものであることがわかった。
ある企業の事業部門長は、自社にとってありうるAIの悪影響として、「5年以内に従業員を3割削減せざるをえなくなる可能性」を挙げた。同時に、そうした破滅的なシナリオを公の場で口にすることはけっしてないとも認めた。これは特異な例ではない。話を聞いた経営幹部は、1on1の場ではAIにどのように向き合い、対応すべきかについて明確で、しばしば野心的な考えを持っていた。ところが、他の幹部とAI戦略を議論する場になると、大きな変革について合意することを避けた。AIに反対する人はいなかったが、AIについて何かを決断する人もいなかったのである。
筆者らはこの現象を「AIリーダーシップの漂流」と呼ぶ。組織が直面する重大な変化を前に、意図せず集団的な思考停止状態に陥ることだ。もちろん、経営幹部は自分の戦略的直感を葬り去るつもりで会議に臨むわけではない。実際には、そうした洞察が一つ、また一つと静かに取り下げられていく。ビジネスモデルを根本から見直せば、自分を含めた全員の立場や将来が脅かされかねず、その議論に踏み込もうとする人がいないからだ。そして、その空白を、誰もが安心できる集団的なストーリーが埋めていく。
この漂流には一定のロジックがあり、そこには3つの入り口がある。「借り物の数字」「安心材料としての過去の事例」、そして「誰も疑問を呈さない場当たり的な対応」だ。
リーダーシップの漂流はどのように起きるのか
1on1のインタビューでは、経営幹部は踏み込んだ戦略を擁護していた。たとえば、若手社員を育成しても他社により高い給与で引き抜かれる可能性があるとわかっていながら育成を続けること、全社的なAI利用ルールの策定、ソフトウェアが仕事の一部を代替する前提での料金体系の再構築などである。個々人は、AIに対応するために自社をどのように変える必要があるのかを理解していた。
次に、経営チームが集団としてどのように考えるのかを観察した。各社の経営委員会を対象にした3回のディスカッション形式のワークショップでは、自社のAI戦略について議論してもらった。激しい意見の対立が起きると筆者らは予想していたが、実際の議論はむしろ穏やかで、意見が同じ方向へと収束した。1on1の場で経営幹部が擁護していた変革案は、会議で反論されることはなかったが、擁護されることもなかった。
誰も最初に声を上げるリスクを取りたがらないため、変革案は一つずつ静かに取り下げられていった。声高にそれを主張すれば、会社に対して請求額を減らし、競合他社に引き抜かれるかもしれない人材を育てることを迫ることになるからだ。結果、リーダーたちはみずからの明晰な見解を胸にしまい込み、議論はAI変革に必要な重大な決定には至らないまま終わった。
この現象をさらに詳しく観察するため、業界の実例に基づく4つの意思決定シナリオを各チームに提示した。
・主要顧客がAIによる生産性向上を理由に40%の値下げを要求している。
・AIが初歩的な仕事をこなせるようになっても若手の採用を続けるべきか。
・優秀なエンジニアが会社が認めていないAIツールを使用している場合、どのように対応するか。







