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AIの実験を行える「足場」があるか
大半のリーダーは、生成AIによる最大の成果をもたらすのは市販の生産性向上ツールではないことに同意する。幅広い分野の従業員たちに価値をもたらし、組織固有の能力を高めるような全社的なソリューションこそが、最も多くの成果を生む。
問題は、こうしたソリューションを構築するには、組織内のドメイン専門家(特定領域の専門家)たちの賛同を得る必要があることだ。彼らには、このテクノロジーをどう活用すれば業務フローを再構成できるのかを探るために、時間と労力を割いてもらわなければならない。この取り組みによって、彼らがより付加価値の高いタスクに専念できるようになることが期待される。しかし同時に、ただでさえ厳しい仕事量に加えて、みずから実験し、社内各所の同僚たちとも実験を重ねるという仕事を彼らに上乗せすることになる。
このような生成AIの共同実験には隠れたコストが伴う可能性があり、放置すれば野心的なAI施策が頓挫しかねない。
生成AIによるイノベーションをリーダーがどのように促進できるのかを理解するために、筆者らは米国を拠点とする2つの組織で2年間のフィールド調査を実施した。2社を仮にNEヘルス、リーガル社と呼ぼう。両社は生成AIを活用して全社的なソリューションを開発するという、類似した取り組みを進めていた。
NEヘルスでは患者に寄り添った内容の退院サマリー(入院患者の診療内容や退院後の注意事項をまとめた文書)、リーガル社では法律調査という全社的なソリューションの開発を支援するために、ドメイン専門家たちが生成AIを活用した。どちらのケースでも、専門家は同僚と共同で生成AIの実験に取り組む必要があった。
ところが、ある時点から両社の取り組みは異なる方向に進んでいく。リーガル社では、ドメイン専門家がイノベーションのプロセスから静かに離脱し始めた。彼らはAIへの拒絶や抵抗を示したわけでも、反対運動を展開したわけでもない。イノベーションに求められるボトムアップでのAI実験から、ただ手を引いたのである。その結果、リーガル社は法律調査をめぐるイノベーションの試みを大幅に縮小することになった。
しかし、NEヘルスでは、専門家たちは共同での実験を続け、全社内で増え続ける貢献者がチームに加わり、100を超える新たな全社的生成AIソリューションを開発した。新しい施策は成功し、ドメイン専門家がイノベーションのプロセスから離脱することはなく、付加価値の高い新たなユースケースが生まれ続けた。
一方では専門家がイノベーションのプロセスから離脱し、もう一方では残り続けたのはなぜだろうか。答えは単純に、「足場」である。NEヘルスは足場、つまり生成AIの共同実験を支える仕組みを構築したことで、ドメイン専門家によるイノベーションプロセスの継続を可能にした。対してリーガル社には、それがなかったのだ。
筆者らは4種類の足場を特定した。それぞれが異なる状況に適用され、共同実験に伴う余分な労力を軽減し、ドメイン専門家の関与を維持するうえで役立つ。
生成AIの共同実験に伴う隠れた労働
先行研究が示すように、生成AIの実験は仕事を増大させる可能性がある。その研究では、個人が自主的に生成AIで生産性を高める方法を試す中で、いかにして仕事の激化をみずから招いたのかに焦点が当てられている。一方で筆者らの研究は、共同での実験に伴う異なる形の隠れた労働を浮き彫りにしている。共同という形式の実験においては、ドメイン専門家は生成AIのユースケース、プロンプト、評価指標、出力フォーマットを、共同でテストし、比較し、記録し、選定する。そして全社的なソリューションを自身の日々の業務に導入する。







