「AIプラクティス」の実践で、タスク拡大や疲労に対処する
Illustration by Eynon Jones
サマリー:AIは仕事の負荷を減らすどころか、むしろ増大させている。従業員は仕事のペースを速め、業務範囲を広げ、労働時間を延ばす傾向があり、その多くは自発的に起きている。しかしこの生産性向上は持続せず、作業負荷の蓄積や認知疲労、バーンアウトを招き、やがて仕事の質の低下につながる。本稿では、こうした問題に対処するための「AIプラクティス」の必要性を論じる。

生産性の追求に伴う代償

 現在、AIを活用する従業員を増やすにはどうすればよいかと多くの企業が悩んでいる。定型的な書類の作成、情報の要約、コードのデバッグといった作業の負担をAIが軽減し、従業員が付加価値の高いタスクにより多くの時間を費やせるようになるという可能性は、やはり魅力的だ。

 しかし、それが実現した場合に起こりうることに、企業は備えができているのだろうか。リーダーは約束された生産性向上にばかり目を向けている間に、複雑な現実に不意を突かれることになるかもしれない。その生産性向上がどのような代償を伴っているのかに気づいた時には、手遅れの可能性がある。

 筆者らは進行中の研究において、AIツールが仕事を減らすどころか、一貫して増大させていることを突き止めた。米国に本拠を置く従業員約200人の某テクノロジー企業で、生成AIが仕事の習慣にどう変化をもたらしたのかを8カ月にわたり調査した。その結果、従業員は仕事のペースを速め、より広範囲のタスクを引き受け、1日の仕事時間を延長していたことが判明した。これらは多くの場合、頼まれなくても自発的に行われていた。

 重要な点として、同社はAIの利用を義務づけていなかった(市販のAIツールの法人向けサブスクリプションには加入していた)。従業員がみずからの意思でより多く働いた理由は、「より多くの仕事をこなす」ことが可能かつ身近な行為であるという感覚をAIがもたらし、しばしば内発的なやりがいを感じさせたからである。

 これはリーダーにとって、夢の実現のように思えるかもしれない。だが熱心なAI導入によって生じた変化は、持続不可能となり、いずれ問題を引き起こすことになりかねない。ひとたび実験の熱が冷めると、従業員は作業負荷が静かに増えていることに気づき、突如抱えこむことになった仕事のやりくりに限界を感じるかもしれない。じわじわと増える作業負荷は、結果的に認知疲労、バーンアウト(燃え尽き症候群)、意思決定能力の低下を招く可能性がある。当初に享受した生産性の急上昇は、仕事の質の低下、離職やその他の問題へと変わるかもしれない。

 こうなればリーダーは困ったことになる。どのような手を打てばよいのか。従業員に自己管理を求めるのは得策でない。それよりも、企業はAIの利用をめぐる一連の規範と基準、つまり筆者らの言う「AIプラクティス」を確立する必要がある。リーダーが知るべきこと、および従業員が成功するよう導くためにできることを以下に述べる。

生成AIは仕事をどのように増大させるのか

 筆者らは2025年4月~12月に、同テック企業における仕事の習慣がAIツールによってどのように変わったのかを調査した。その方法として、週2日の対面観察、社内のコミュニケーションチャネルの追跡、およびエンジニアリング、プロダクト、デザイン、研究、オペレーションの各部門にまたがる40回以上の綿密なインタビューを実施した。

 その結果、仕事の増大は主に3つの形を取っていたことが明らかになった。

タスクの拡大

 AIは知識不足を補うことができるため、従業員はこれまで他者の管轄だった職務に立ち入ることが増えた。プロダクトマネジャーとデザイナーはコードを書き始め、研究者はエンジニアリングのタスクを引き受けた。個々人が組織の至るところで、以前ならば外注もしくは先送りにしたり、完全に避けたりしたであろう仕事に取り組むようになった。

 生成AIはそれらのタスクを、いままでになく身近なものに感じさせた。AIツールは多くの人に、認知力が向上してエンパワーされたような体験をもたらした。ツールは他者への依存度を下げ、作業中に迅速なフィードバックと修正を提供した。従業員たちはこれを、AIで「少し試しているだけ」と表現したが、こうした実験が積み重なり、職務範囲の実質的な拡大につながった。実際に彼らは、以前であれば追加の支援や増員が正当化されたであろう仕事を、ますます自分で引き受けるようになった。

 従業員による職務範囲の拡大には、波及効果があった。たとえばエンジニアはやがて、同僚が作成したAI生成またはAI支援による成果物のレビュー、修正、指導に、より多くの時間を費やすようになった。これらの要求は、正規のコードレビューの範疇を超えて寄せられた。エンジニアは気づけば、「バイブコーディング」を行う同僚を指導したり、途中まで完了したプルリクエストの仕上げを引き受けたりすることが増えていた。こうした監督作業はしばしばスラックのスレッドや、デスク脇での手短な相談の中で非公式に表面化し、エンジニアの作業負荷を増やした。

仕事と非仕事の境界の曖昧化

 AIによって従業員はタスクを始めることが非常に容易になり、白紙の状態や出発点がわからない状態に直面することへの抵抗が減った。このため、これまで小休止に充てていた時間に少量の仕事を入れ込むようになった。多くは昼食中や会議中、あるいはファイルの読み込みを待つ間にも、AIに指示を出した。離席中にAIが稼働できるよう、席を離れる直前に「手早く最後のプロンプト」を送信したという人もいた。

 これらの行動によって「仕事を増やしている」と感じることは滅多になかったが、時が経つにつれて、自然な小休止がより少なく、より継続的に仕事に従事する勤務日が生まれていった。会話調のプロンプトが、この体験をいっそう和らげる効果をもたらした。AIシステムに言葉を入力するのは、正規のタスクよりもチャットに近いものに感じられ、意図せぬうちに仕事が夜間や早朝にまで入り込みやすくなった。

 一部の従業員によれば、休憩中のプロンプト入力が習慣化するにつれて、もはや休憩時間が以前のような回復感をもたらさなくなっていたことに、後になってから気づいたという。その結果、仕事は境界が曖昧な、自分を取り巻く「環境」のようなものであり、常にもう少し先に進めることができるものと感じられた。仕事と仕事以外の境界が消えたわけではないが、より簡単に超えられるようになったのである。

マルチタスキングの増加

 AIは、従業員が進行中の複数のタスクを同時に管理するという新たなリズムをもたらした。彼らは手作業でコードを書いている間にAIに別のバージョンを生成させたり、複数のエージェントを並行して動かしたり、長らく先送りにしていたタスクを、AIがバックグラウンドで「処理」してくれるからという理由で再開したりした。従業員がこのような行動を取った一因は、自分には仕事の処理を手伝ってくれる「パートナー」がいると感じていたことにある。

 この「パートナー」がいるという感覚によって、勢いを感じることができた。しかし現実には、注意の切り替えが絶えず、AIのアウトプットを頻繁にチェックし、未完のタスクが増え続ける状態だった。このため、仕事は生産的に感じられるにもかかわらず、認知負荷がかかり、常に複数の仕事のやりくりに追われている感覚が生まれた。

 時が経つにつれて、このリズムはスピードへの期待値を引き上げた。それは必ずしも明示的な要求を通じてではなく、日々の仕事の中で顕在化、常態化した流れを通じてである。多くの従業員はAI導入前と比べて、より多くのことを同時に行うようになり、より強いプレッシャーを感じていると述べた。自動化による時間の節約は表向きには、そのようなプレッシャーを減らすためだったにもかかわらずだ。

組織にどう影響するのか、そして「AIプラクティス」がどう役立つのか

 これらすべてが自己強化的なサイクルを生んだ。AIが特定のタスクを加速させ、それがスピードへの期待値を高めた。スピードが上がったことで、従業員はAIにいっそう頼るようになった。依存が高まったことで、従業員が試みる業務の範囲が広がり、結果的に仕事の量と密度がさらに増えたのである。

 複数の参加者は、生産性が上がったと感じるものの、忙しさが減ったとは感じず、以前よりも多忙だと感じることもあると語った。あるエンジニアは次のように要約した。「AIを使えば生産性を上げることができるのだから、時間をある程度は節約して、仕事を減らせるだろうと思った。ところが実際には、仕事は減らない。まったく同じか、さらに多く働くことになる」

 組織はこの自発的な仕事の拡大を、大成功だと見なすかもしれない。結局のところ、これが従業員みずからの意思によるものであれば、何が悪いというのか。これこそが、約束されていた生産性の爆発的向上ではないか──。

 しかし筆者らの研究は、仕事を非公式に拡大して加速させることのリスクを浮き彫りにしている。短期的に生産性向上のように見えるものは、従業員がAIを活用した複数のワークフローをやりくりする中で、静かにじわじわと増える作業負荷と高まる認知的負担を覆い隠す可能性がある。追加の努力は自発的に行われ、しばしば楽しい実験として捉えられるため、リーダーは従業員がどれほど追加の負荷を抱えているのかを見逃しやすい。やがては過重労働によって判断力が低下し、ミスの可能性が高まり、組織は純粋な生産性向上と、持続不可能な忙しさを区別するのが難しくなるおそれがある。

 従業員にとって累積的な影響は疲労やバーンアウトとして現れ、仕事から離れるのがますます難しいと感じるようになる。スピードと即応性に対する組織の期待が高まる中では、なおさらだ。

 AIツールが職場のあり方をどう変えるのかに関して、受動的に対応するのではなく、個人も企業も「AIプラクティス」を取り入れるべきだ。すなわち、AIをどう使うのか、いつ停止するのが適切なのか、新たに獲得した能力に応じて仕事をどう拡大すべきか、あるいは拡大すべきでないのかを体系化する、一連の意図的な規範とルーチンである。このような慣行がなければ、AI支援による仕事は縮小ではなく増大に向かうのが自然な傾向であり、バーンアウトを招き、意思決定の質と長期的な持続可能性に影響を及ぼす。

 組織はAIプラクティスの確立に取り組むに当たり、以下の点を検討すべきである。

意図的な小休止を入れる

 タスクのスピードが上がり、境界が曖昧になる中、従業員はテンポを調整するための短く計画的な時間によって恩恵を受けることができる。つまり、先に進む前に整合性の検討や前提の見直し、情報の吸収などを行うために確保された、インターバルである。

 これらの小休止が仕事全体を遅らせることはない。加速が放置された場合に生じる、過負荷の静かな蓄積を防ぐだけだ。たとえば、重要な決定が最終確定される前に「意思決定の小休止」を設け、反論と、組織目標との明確な関連性を一つずつ挙げることを義務づけてもよい。一つに限定することで、本題から逸れない程度に注意の範囲が広がる。こうした小休止を日常のワークフローに組み込むことは、AIで拡張された環境において、組織がよりよい意思決定、より健全な境界、より持続可能な生産性のあり方を後押しする一つの方法だ。

仕事の順序づけ(シークエンシング)をする

 AIがバックグラウンドでの継続的な活動を可能にする中、組織は仕事を進めるスピードだけでなく、進めるタイミングを意図的に形づくる規範によって恩恵を受けることができる。これには、緊急ではない通知を一つにまとめる、自然な区切りがつくまで更新を保留する、従業員に邪魔が入らないよう守る集中時間帯を確保する、などが含まれる。

 AIのアウトプットが現れるたびに反応するのではなく、順序づけによって仕事を段階的に進めることを促す。このように調整のペースを整えることで、従業員は仕事の断片化や、負担のかかる「コンテクストの切り替え」が減ると同時に、チームの全体的な処理能力も維持される。継続的な即応性を要求するのではなく、仕事の順序とタイミングを管理する順序づけによって、組織はAI志向の職場で注意力を維持し、認知負荷を減らし、より思慮深い意思決定を後押しできるようになる。

人間同士のつながりを保つ

 AIによって、より多くの仕事を一人で完結して行えるようになる中、組織は傾聴と人間的なつながりのための時間と空間を確保することで恩恵を得られる。他者とつながる短時間の機会──たとえば簡潔な近況確認、振り返る時間の共有、構造化された対話などは、AIツールでの継続的な単独作業を中断させ、広い視点を取り戻す一助となる。

 社会的交流は視点の回復だけでなく、創造性も後押しする。AIは単一の統合された視点を提供するが、創造的な洞察は複数の人間の視点に触れることで生まれる。傾聴と対話のための時間と空間を制度化することで、組織は仕事を社会的文脈に再びつなぎ留め、AIを介した高速な仕事がもたらす消耗と個人化の影響に対処しやすくなる。

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 生成AIの真価は、仕事にどのように貢献するかだけでなく、いかに思慮深く日常のリズムに組み込まれるかによって決まる。意識しなければ、AIはより多くの仕事の遂行をより容易にする一方で、やめるのを難しくすることを筆者らの研究結果は示している。そのカウンターバランスとなるのがAIプラクティスであり、仕事が加速する中でも回復と内省の時間を確保する手段となる。

 組織に突きつけられている問いは、AIが仕事を変革するかどうかではない。組織自身が積極的にその変革を形づくるのか、それともAIによって組織が静かに形づくられるままにしておくのか、である。


"AI Doesn't Reduce Work—It Intensifies It," HBR.org, February 09, 2026.