小売業の問題は店舗ではなく従来のビジネスモデルにある
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サマリー:需要予測の困難化やAIの台頭に伴い、在庫リスクを自社で抱え込む従来の買い取り仕入れモデルは限界を迎えている。背景には、店舗の衰退ではなく、不確定な需要に対するリスク配分構造の機能不全が存在する。本稿では、店舗を価値創出の「プラットフォーム」へと再設計する構造転換を解き明かし、小売りが再起するための具体策を提示する。

実店舗型の小売りは衰退しているのか

 シーズンの終わりに百貨店を歩けば、「40%オフ」「60%オフ」「クリアランスセール」といった見慣れた値下げの表示があちこちに並んでいる。小売企業はこうした値下げを、商品の選択を誤った、販促策が適切でなかった、天候に恵まれなかった、といった個別の問題として捉えがちだ。

 しかし、むしろこれは小売企業による「告白」と捉えるべきだろう。こうした値下げには、従来の小売モデルの弱点が如実に表れている。小売企業はみずからリスクを負って買い取りを行うマーチャント(商人)として、需要がわからない段階で在庫を抱え、予測が外れるリスクを引き受ける。そして売れ残れば、値下げによって利益率を落とし、ブランドエクイティまで損なうことになる。こうした従来型の仕入れモデルの下で、小売企業は自社で抱えきれないほどのリスクを負っている。

 店舗閉鎖の数字を見ると、この問題が業界全体に広がっていることがわかる。米調査会社コアサイト・リサーチによると、2024年に米国で閉鎖された店舗は7325店に上り、約1万店が閉鎖された2020年以来の高水準となった。総合不動産サービス大手のJLLによれば、2024~2025年初めまでに閉鎖が発表された店舗は9900店を超えている。

 こうした数字を見れば、「実店舗は衰退している」と考えたくなるかもしれない。だが、そう結論づけるのは正しくない。新規出店も依然として相当数に上り、撤退した店舗の跡には、より競争力のある業態が次々と入っている。つまり、消費者が店舗から離れているのではなく、小売りのビジネスモデルそのものが変化しているのだ。

 利便性、価格、サービス、顧客体験、あるいは個性的なブランドとの接点などを適切に組み合わせた店舗であれば、今後も十分に成長できる。ただし、何が最適な組み合わせなのかはたえず変化する。需要予測が難しくなった市場で過大な在庫リスクを抱える従来型の仕入れモデルに依存した店舗ほど、大きな圧力にさらされている。

 これは新しい現象ではない。スタンリー・ホランダーが1960年に初めて提唱した古典的な「小売りの輪」理論では、新たな小売業態は通常、低コスト、低利益率、低価格を武器に市場へ参入する。その後、よりよい立地や充実したサービスを求めるようになり、コストも利益率も上昇する。そして最後には、新たな低コスト業態に市場を奪われやすくなる。この「輪」はいまも回り続けている。百貨店、ショッピングモール、ディスカウントストア、カテゴリーキラー(特定カテゴリーの商品を豊富な品揃えで低価格販売する大型専門店)、大型量販店、ECプラットフォームは、いずれもこのサイクルを経験してきた。

本当の問題は「店舗」ではない

 小売企業にとって重要なのは、この「小売りの輪」を今後も回り続けなければならないのか、という問いである。筆者らは、その必要はないと考える。

 このサイクルから抜け出すには、新しい業態が登場するたびに、それを「商品をよりうまく仕入れて販売する方法」と捉えるのをやめなければならない。小売りそのものを、リスクを適切に配分するためのプラットフォームとして捉え直す必要がある。問題は実店舗にあるのではない。小売企業が需要が見通せない段階で商品を仕入れ、何千ものSKU(最小在庫管理単位)の需要を予測し、それが外れた場合のコストを引き受け、最終的には顧客に「値下げまで待つ」という習慣まで身につけさせてしまう仕組みが問題なのだ。

 市場の変化が緩やかで細分化も進んでいなかった時代には、このモデルが生むリスクも比較的管理しやすかった。しかし現在、その負担ははるかに重い。消費者の嗜好は以前より速く変化し、ブランドの流行サイクルも短くなった。ソーシャルメディアによって、わずか数日で需要が生まれたり消えたりすることもある。オムニチャネル化によって業務も複雑になった。従来のモデルでは、情報の確度が低くなっているにもかかわらず、小売企業は以前より大きな賭けを強いられているのである。

 高度なデータ分析は役に立つ。迅速な補充システム、AIによる需要予測、デマンドセンシングも有効だ。しかし、それだけでは構造的な問題は解決できない。在庫について判断する側が、個々の商品の需要を最もよく把握しているとは限らない。しかも、その商品にとって最善の判断をするようなインセンティブが働いているとも限らない。

需要に合わせて在庫の判断を変える

 需要と供給のずれを減らす方法は、大きく2つある。

 一つは、仕入れの判断をできるだけ遅らせることだ。まず少量だけ発注して需要の動きを見極め、その後、本格的な仕入れを行う。そのためには、リアルタイムで需要を分析する仕組みと、より近い地域から迅速に商品を調達できる体制が必要になる。

 もう一つは、商品をよりよく知る側に判断を委ねることだ。ブランド側は、自社の商品カテゴリー、品揃え、価格帯、顧客からのシグナルを、小売企業の中央集権的な仕入れ部門より深く理解している場合が多い。小売企業のバイヤーは数十のブランドと、数百、場合によっては数千ものSKUを担当する。一方、ブランド側は自社の商品、自社の顧客、自社に寄せられる需要のシグナルに集中している。問題は、小売企業が判断を手放すべきかどうかではない。需要リスクは常に中央の仕入部門が負うべきだという前提を、見直すべきかどうかである。