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重要なものを優先する
組織のいずれかの階層でリーダーを務めている人はみな、職業人生、能力、経営資源、環境、組織理念の守り手である。残念ながら、マネジャーならだれでも賢い守り手かというと、そうではない。雇われ人然と振る舞う人たちもいるのだ。具体的には、短期の利益を増やすために将来に負担をしわ寄せする、会社よりも自分の職業人生を優先する、弱い立場の従業員をいいように使う、顧客の知識不足に付け込む、競争を和らげるために政治に働きかけるなどである。いまかつてなく重要になっているのは、マネジャーが事業の守り手としての責任を重く受け止めることだ。
守り手という言葉から私が思い起こすのは以下の5つである。
1. 忠誠:自分の管轄下にある人材や貴重な経営資源を、私利私欲の道具ではなく預かりものと見る姿勢
2. 慈善:自分の利益よりも他者の利益を優先しようとする意思
3. 慎重さ:現在のチャンスを活かしながらも、将来にツケを回すことはしないという誓い
4. 説明責任:自分の行動が全体に及ぼす影響についての責任の自覚
5. 公平性:立場の強さではなく貢献度に応じた報酬を徹底しようという熱意
これらの美徳は近年、特に廃れてきているようである。エンロンやイタリアの食品会社パルマラットの不正経理事件。ロイヤル・ダッチ・シェルの備蓄量水増しやBPの無責任な安全基準。バーナード・マドフの巨大詐欺やヒューレット・パッカード(HP)の盗聴問題。カントリーワイド・フィナンシャルの借り手を食い物にする融資慣行や、リーマン・ブラザーズの悲惨な暴走。インドの汚職まみれの周波数売却や、盗聴取材をきっかけとしたニューズ・コーポレーションの激震……。
これらの卑劣な行いにもかかわらず、私は、今日の大物経営者たちが先人たちと比べてタガが緩んでいるとは思わない。「おいはぎ貴族」を意味するドイツ語「ラウブリッター」の起源は中世に遡る。ライン川で通行料を厳しく取り立てる人々をこう呼んだのが発端である。一九世紀になるとこの言葉は、投機的な事業で大儲けを狙い、時には強欲さをも発揮するアメリカの企業家を形容するのにぴったりだとして、再び用いられるようになった。
「21世紀のリーダーはとりわけ道徳観念が弱い」と思えるとすれば、それは、複雑に入り組んだグローバル経済のもとでは、経営者の不正や違法行為の影響が拡大するからである。
2011年にヨーロッパを席巻した国家債務危機を考えてみよう。さまざまな仕組みが各国内で閉じていれば、たとえばギリシアのような国で信用不安が持ち上がったとしても、惨事は一定の範囲内に収まるだろう。ところが、世界中が互いに結びついていて、強欲に発した戦略が瞬く間に模倣され、無謀なリスクがウイルスのように広まる状況では、事情が異なる。だからこそ、フランスとドイツの諸銀行は、「PIGS」と総称されるポルトガル、アイルランド、ギリシア、スペインに、返済能力がきわめて心許ないにもかかわらず、9000億ドル超を融資したのだ。こうして見ると、モラルハザードに陥りやすいのは、アメリカの銀行家だけではないのである。
ただし、銀行家について心を痛めるだけでは足りない。ネットワーク化された世界では、セキュリティ基準が手ぬるいと、1億人以上の消費者の個人情報が危険に晒されかねない。販売業者の調査を怠ると、食品汚染による世界規模のパニックが起きかねない。そして、品質を軽視した意思決定は、グローバル規模での製品リコールへとつながりかねない。
要するに、グローバルな行動を取る人々の意思決定は比類ない重大性を持つため、彼らは他に類例のないほど模範的な倫理基準に従わなくてはならないのである。HPのマーク・ハード元CEOは、会社の倫理規定に少しばかり違反しただけのように見えるが、それでも更迭されたのだから、同情を引きやすい。この事例で正義が行われたのかどうかは分からないが、影響力あるリーダーに高い基準を課すのは間違いなく望ましいことである。
グローバル経済は倫理判断の影響力を増幅させるが、ウェブもこれと同じ役割を果たす。ある地域での不始末が、ウェブ上のクチコミの威力によってすぐさま世界の注目を集めかねない。ナイキ、アップル、デルほか数々の企業が、アジアの下請け企業の感心しない雇用慣行に目をつぶったせいで、厳しい批判にさらされてきた。ウェブの世界には隠れる場所はなく、不届きは必ず露見する。
ウェブはまた、以前にはなかったグローバル意識を芽生えさせている。「全体が互いにつながっている」という意識が強まっているのだ。同じ惑星に暮らし、同じ空気を吸い、同じ海洋を共有しているという理解が深まりつつある。市民としての生活を送り、購買経験をするなかでは、誰もが等しく高い水準の公平さや公正な扱いを期待し、その期待が裏切られると気分を害する。しかも、ウェブがあるお蔭で、こうした不快感はすぐにグローバル規模の不満の大合唱となって表れる。世界中で、実際の行いのよしあしはともかく、倫理面の期待水準は高まってきている。
巨大企業と巨大政府の連携もまた、理念の重要性を高める役割を果たしている。私たちは、市民として、そして消費者としての立場から、「ロビイストと規制当局者が豪勢な食事をしながら話し合うのは、私たちの利益になる中身ではないだろう」と察するだけの知恵を持ち合わせている。直感的に察知できるとおり、民主主義と経済は、権力が集中していない場合のほうがうまく機能する。しかし、えてして権力は集中してしまうから、頼りとすべき地位に本当に信頼に値する人々が就くよう、力を尽くさなくてはいけない。
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