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イノベーションを守る
いまでは守りの姿勢がふつうになっているが、これはおよそ驚くにあたらない。なぜなら、世界中の多くの企業が直面する現実とは、景気の停滞、恐ろしく効率のよい競争相手、サイフの紐の固い顧客などだからだ。果てしない緊縮の循環に呑み込まれたように感じられる状況では、たとえ「世の中には苦しみよりも希望のほうが溢れている」と信じていたとしても、楽観的になるのは難しいかもしれない。イノベーション推進派にとっては、明るい顔をするのはいっそう難しいだろう。
もしあなたが中堅のバイスプレジデントなら、最近になって権限を強めた財務屋さんに、お気に入りのプロジェクトを潰された経験があるのではないだろうか。苦境にあえぐ起業家なら、大切な人材の一部を解雇し、支出をギリギリまで削る必要に迫られているかもしれない。イノベーションの支援を担うコンサルタントなら、「支出凍結命令」があと一回出されようものなら、「ブレインストーミング要員申し受けます。対価は食べ物で」という手書きの看板を掲げて、人通りの多い交差点に立つはめに陥るかもしれない。
近年では、左脳を活かす人々が有利な状況にあり、夢を追い求めてイノベーションを推進しようとする人々はなかなか意見を聞いてもらえずにいる。しかし、企業がイノベーションの優先度をいっそう引き下げる前に、すべてはイノベーションにかかっていることを思い起こす必要がある。
私たちの存亡はイノベーションにかかっている
人類が存在するのは、40億年に渡る遺伝分野のイノベーションの恩恵による。生命体は有史以前から、生殖による遺伝子組み換えや突然変異をとおして、新たな遺伝子の組み合わせを試してきた。私たち人間は、遺伝をとおして選び抜かれた存在なのである。遺伝上の無数のハプニングや遺伝子の転写ミスといったイノベーションが凝縮して、知覚や思考が実現した。神に配剤の誤りを感謝しよう。もし遺伝上のミスがほとんど起きなかったら、生命体は細菌類から進化せず、人類もいまだ存在しなかっただろう。人類の未来がどうあれ、画期的なイノベーションに幸運な偶然が欠かせないのは確かである。
私たちの繁栄はイノベーションにかかっている
私たちの大多数はただ生きながらえているだけではなく、祖先にはほとんど想像もつかなかったような安寧な暮らしをしている。これについてもイノベーションの恩恵に感謝しなくてはいけない。数千年に渡る社会革新の結果、いまや人類の多数が自己決定権を持っている。もはや奴隷や徴集兵ではないのだ。民主主義国では思想や行動の自由があり、これらはイノベーションに不可欠の前提条件である。
資本市場、会社法、特許権保護の考案といった制度面のイノベーションが、通商や資本形成を促し、起業家精神を発揚することにより、経済発展への道を開いた。そして100年以上におよぶ猛烈な技術革新の恩恵によって、公共輸送機関に頼らなくても移動しやすくなり、好きなときにすぐにコミュニケーションが取れ、多数の医薬品が生まれ、コンピュータの性能が凄まじく向上し、TiVOの録画機能を使えばCMを飛ばしてテレビ番組だけを楽しめるようになった。
テクノロジーの飛躍的な進歩につれて、収入水準も跳ね上がった。紀元1000年から1820年にかけて、世界の人口一人当たりの収入はわずか50%しか増加しなかった。ところが次の120年間では800%も伸びたのである。要するに、イノベーションによって人類は窮乏から救われたのだ。
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