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変革の方法を改める
千年後の人々は今の時代をどう見るだろうか。1900年代の終わりから2000年代初めの時期について、どのような点に着目するだろうか。ウェブの発明だろうか。ヒトゲノムの解読、それとも火星への探査機の派遣だろうか。世界各地における、デジタルツールを武器とした民主化運動の高まりだろうか。気候変動をめぐる不安への対処(あるいは傍観)だろうか。これらはみな特筆すべき出来事だが、千年後の人々は、今の時代に変化のスピードが危機的なほど加速したことに衝撃を受けるだろう。
事実、変化のありようは変わってしまった。身の回りにおける急激な変化の具体例は数えきれないほどである。全世界の携帯電話数、CO2(二酸化炭素)の排出量、データ保存量、半導体チップの性能、インターネットに接続した機器数、塩基配列の決定が終わったDNAの数、世界のエネルギー消費量、知識そのものの量……・。ところが私たち自身は、急カーブを描くように加速する変化というものを、あまり経験していない。規制当局者やリスク管理者が、MBS(不動産担保証券)のウイルスのような増殖に手を焼いたのも、不思議ではない。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の発行残高は、1998年には3000億ドルにすぎなかったが、以後の10年間で62兆ドルへと膨張した。年率70%を超える勢いで増加したわけである。
言うまでもなく、飛躍的な増加が永遠に続くわけではないが、携帯電話の普及率のように鈍化する事例もあれば、ソーシャルメディアの爆発的な普及のように勢いの衰えていないトレンドもある。しかも、これらのトレンド間で相互作用が起きると、まったく新しい事象が起き、フラッシュ・モブ、テロ組織のグローバル・ネットワーク、地域別ウェブ・アプリケーションなどが生まれる。過去の時代にも飢饉、病気、戦争などの被害はあったが、これほど多くの変化がこれほど凄まじいスピードで起きているのは、今の時代だけである。
最近の社会は中断だらけで安定など得られず、将来は過去とは断絶する傾向が強まっているように思える。変化は多方面に渡る容赦ないもので、攪乱要因となり、時として大きな衝撃を引き起こす。この大混乱のなかでは、長い歴史を誇る政治体制、格式ある組織、100年の歴史を持つビジネスモデルでさえも存続の危機に瀕する。どのような組織にとっても、いま最も重要な問いは「自分たちは世の中の変化に後れを取っていないだろうか」である。大多数のCEOは「後れを取っている」と認めざるをえないだろう。
どの業界でも、変化の波に乗っているのは既存企業ではなく新興企業である。マイクロソフトではなくグーグル。エレクトロニック・アーツ(EA)ではなくジンガ。クライスラーではなく現代(ヒュンダイ)。バーンズ・アンド・ノーブルではなくアマゾン。ノキアではなくアップル。日本航空ではなくエアアジア。ソニーではなくビジオ(Visio)……。ただし、最先端を走る企業も、自分たちが倒した相手と同じくらい脆弱である。成功はかつてなくはかなさを増している。
ここで近年における携帯電話ビジネスの歴史を振り返ってみたい。1983年、モトローラがレンガのような形状の〈ダイナタック〉を発売し、一時は世界の携帯電話市場で無敵の存在かと思われた。その10年後、ノキアが製造しやすいキャンディバー型の携帯電話を開発して、業界の度肝を抜いた。そして、魅力的なデザインを武器に成長街道を驀進し、20世紀が終わる頃には巨大な消費者向け携帯市場において40%のシェアを握っていた。
2002年にはカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)がかの〈ブラックベリー〉を世に出し、それまでは機能の少なかった携帯電話をビジネスに欠かせないツールへと変貌させた。そして2007年、アップルが〈iPhone〉という掌に載る高性能のコンピューティング・ブラットフォームで業界に殴り込みをかけた。30年間に、4社が入れ替わり立ち替わり業界リーダーの地位を占めてきたわけだ。これが、決してささやかでない変化が起きる環境における競争の現実なのである。
ネットビジネスの分野では、さらなる急変も起きうる。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)について見ると、10年に満たない期間に業界リーダーはフレンドスターからマイスペース、さらにはフェイスブックへと変遷した。リーダーは暴れ馬に乗っているようなもので、変化に翻弄されて往々にして泥地へと振り落とされる。
以上から、将来に関して確実に言えそうなのは、あなたの組織もほどなく、先例のない変化に見舞われるだろうということだけである。そうなると、適応するか躓くか、基本前提を考え直すか将来を手探りするかであり、正直なところ、手探りをする可能性が最も高いだろう。
言うまでもなく、変化は期待と危険の両方をもたらすが、どちらがどれだけ多いかは各組織の適応力しだいで決まる。これは困った問題である。というのも、私たちの組織はもともと適応力を備えていないのだ。100年前のマネジメントの先駆者たちは、危機に負けない組織ではなく、秩序に従う組織を築こうとした。彼らは、ルーチン化されていない業務をルーチン化するのが効率を高める道だと心得ていた。
他方、適応力を発揮するには、時としてルーチン業務を取りやめる必要があるのだが、たいていの組織にはそのようなインセンティブはほとんどない。こうして、変革はささいなものに終わるか、大きな痛みを伴うか、どちらかになりがちである。ごく一般的な企業の沿革をたどってみると分かるが、小さな改善を積み重ねる時期が長く続き、時折、危機を引き金にして猛烈に変革を進めようとするのだ。
創刊50周年記念フォーラム「経営の未来」のお知らせ
生き残るために取り組むべき5つの課題
『経営は何をすべきか』
[著者]ゲイリー・ハメル
[翻訳]有賀 裕子
[内容紹介]ウォール・ストリート・ジャーナル誌が選ぶ世界ナンバー1経営思想家であり、『コア・コンピタンス経営』『経営の未来』で有名なゲイリー・ハメル氏。同氏がグローバル社会において求められるマネジメントとは何か。混沌とした状況で、いま、そして今後、何を指針としていくべきか。経営の大家が送る渾身の提言。







