意思決定の質の高め方を一流スポーツコーチに学ぶ

 ビジネスリーダーは、常に重圧下で重要な意思決定を行っている。不完全な情報や相矛盾する情報をもとに決断を下すケースも多く、その意思決定はチームや組織のパフォーマンスに、そして自分自身のキャリアにも重大な影響を与える。

 一流のスポーツコーチも同様だが、2つの決定的要因によって影響は一段と大きくなる。一つは時間枠がタイトであること(わずか数秒で指示を出さなければならないことも多い)、もう一つはたえず人目にさらされること(テレビで生中継され、常時ファンやメディアに批判されるなど)である。

 筆者らは数年間にわたり、米国のナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)、メジャーリーグ・ベースボール(MLB)、欧州のプレミアリーグ、ラ・リーガ、UEFAチャンピオンズリーグ(サッカー)、ラグビーユニオン、オーストラリアとニュージーランドのナショナルラグビーリーグで成功している11人のコーチを調査し、試合中の指示や選手交代、選手の採用や故障からの復帰に伴う選択など、あらゆる物事への対処方法について理解を深めることにした。意思決定を行う際に、認知的、感情的、社会的にどのように対処しているのかを理解したいと考えたためだ。

 その結果得られたのは、特性のチェックリストでもなければ、意思決定の新たな公式でもない。決定的な局面の事前、最中、事後に、重大な意思決定がどのように形づくられていくのかを丹念に文書化することができた。本稿では、これら3つのフェーズでコーチが採用している具体的な手法に着目し、ビジネスリーダーが自身の意思決定の質を高めるために、それらをどのように活かせばよいかを説明する。

〔BEFORE〕事前

 コーチは重大な局面が訪れる前に、重圧下で明快に決断できるようにするための条件づくりに集中する。

 コーチは将来必要になる意思決定を見越して行動する

 インタビューに応じたコーチらは、シーズン中や試合中に必要となる重要な意思決定を予想し、さまざまなシナリオを想定している。ラグビーワールドカップで優勝経験のあるヘッドコーチは、インタビューで「意思決定が必要になる状況を予測し、あらかじめ解決策を見つけておかなければなりません」と説明した。

 別の一流ラグビーコーチは、「重要なのは、その時が来たら決断力を発揮し、慌てて指示を出さずに済むよう計画をすることです」と話した。

 こうした計画は、理論的というより実践的なものだ。コーチは決断を下す過程で、みずから考えるだけでなく、決定的局面までにさまざまなことを話し合ったり、異論を引き出したり、指示内容を明確化したりと、他の人に自分の考えをはかる。こうなった場合はどうするか。誰が決定するのか。どのような兆候が重要か。その目的は未来を描くことではなく、役割、判断基準、権限について曖昧な点をなくすことである。

 あるMLBの監督は、最近のワールドシリーズの試合で、それがどのように役に立ったかを説明してくれた。初戦の前夜、監督とスタッフは、オールスター選出経験のある相手チームの先発左腕を想定し、打順を検討した。そして、通常ならばこのケースで起用されるであろうベテラン右打者の代わりに、有望なルーキーの左打者を先発起用することにした。このエース投手に対しては、ルーキーのほうが相性がよいと判断したためだ。また、相手チームが左のリリーフピッチャーに交代した場合には、ルーキーをベテランに代えることも決めた。

 試合では7回に相手チームが左投手を別の左投手に交代させたが、そこまでルーキーが好調だったため、計画を変更したい気持ちに駆られたとしても不思議ではなかった。しかし、監督はぶれなかった。ベテランを代打として投入すると、彼はその後ホームランを放ち、チームの勝利を決定づけた。監督はのちに「あの采配は前夜に決定していた」と振り返った。