中途半端なロジックは選択の幅を狭める

編集部(以下色文字):梅原さんはコンマ1秒の判断が勝敗を分けるゲームの世界において、次々と新しい才能が台頭する中でも第一線を走り続けてきました。ご自身の判断について、著書の中では「ゲーム中に何かあると『怪しい』とか『ヤバいな』という感覚になる。瞬間の攻防なので言葉にはならないが『次はこれが来る』ということを瞬時に感じるのだ。それは単なる勘じゃなくて、僕にとっては記憶が元になった感覚なのだ[注1]」と説明され、これは直観の原理に通じるものがあります。「記憶が元になった感覚」について、もう少し詳しく教えてください。

梅原(以下略):前提として、キャラクターの操作は意識しないで行えるレベルで習得していることと、何度も戦ったことのある相手と対戦することという条件がつきますが、「この人は、こういう時、こう動く」と整理していたわけでないのに「次はこう動きそう」と感じ取れることがあります。また、自分の中で判断の理由が明確でなくても、なぜかヒットした不思議な攻撃もあります。

 たとえば、古い作品になりますが『ストリートファイター2』というゲームで、自分は試合開始直後に飛び道具の波動拳(はどうけん)を繰り出す「開幕波動」という技を使っていました。避けられたら大きなすきが生まれるのでリスクが高く、嫌う人も多かったのですが、自分を含めて好んで使う人もいた技です。開幕直後で直前の展開がある状況ではないため、開幕波動を使うべきかどうかを論理的に判断することはできません。それでも、何度も対戦したことがある相手なら、次に取る行動が何となくわかりました。

 自分が何ラウンドも連続で開幕波動を続けている状況で「次のラウンドは飛ばれて回避されそうだな」と思って開幕波動を打たないとやはり飛ばれたり、開幕波動を使ってこなかった相手でも「次のラウンドでは打ってきそうだな」と思って飛ぶと避けられたりした経験は何度もあります。理由を説明することはできませんが、数を重ねる中で自然と、確実にわかるようになっていきました。

 梅原さんのように経験豊富であれば、初見の相手にもパターンを見出し、次の行動を予見できそうですが、何度も対戦を重ねた相手にしかつかめない感覚なのですね。

 はい、そこは前提です。相手を問わず「このような動きをする人は、次にこう動く」というおおまかな傾向を感じ取れることはありますが、プロのレベルでその程度の推測はほぼ当てにならず、そのような感覚に頼った選択が勝利につながるとはいえません。

 自分の特性として、最初はあまり勝てなくても、時間が経過するほど勝率が上がります。以前は「相手よりも強くなったから、対戦数が増えると勝利に収束していく」と考えていたのですが、最近になってその認識は変わりました。実力がついたから勝てているのではなく、自分は記憶を頼りに瞬間的な判断を下すのが得意で、直観が働きやすくなるため、対戦数を重ねることが勝利に直結します。

 なぜ直観のように根拠の乏しい感覚を信じて、行動に移せるのですか。

 瞬間的に論理を組み立てて、判断を下すのが苦手だからだと思います。自分の場合、いったん立ち止まり、整理して分解し、言葉にしてからでなければ、物事を論理的に判断することができません。腰を据えてその作業を行うのは得意なほうだと思いますが、瞬間的にそれを行い、どの選択が最も得になるかを、すぐには決められないのです。

 攻略法が確立されていない段階では、自分の行動を言語化し、分析する過程が必要です。それをやらないと、選択の効率が勝敗を分けるところですら負けてしまうからです。しかし、効率を競い合う戦いを超えた先で、自分のような理に強くない人間が中途半端なロジックを組み立てても浅くなり、選択の幅を狭めてしまうことになります。