2.変更できるストーリーの枠組みをつくる
ブランド・ストーリーは、度重なるフィードバックを経るうちに大きく変わっていく可能性がある。デジタルCMOはこの新たな展開を受け入れる態勢を整えておく必要がある。その方法の1つは、最初から柔軟性のあるストーリーの枠組みを考えておくことである。変更が可能な枠組みをつくっておけば、よりよいストーリーが現れた時にそれを採用することができる。
迅速に変更できるストーリーがあれば、好ましいトレンドや世界を変えるような出来事が発生した時に、その機に乗じることができる。そのための準備を整えておくことが何よりも大切だ。市場でキャンペーンを行った後に動かせる経営資源を確保しておこう。顧客が何かに共感したらそこに資金を充当し、その根底にある要因――それが予想したものであってもなくても――に積極的にフォーカスするためだ。
エアビーアンドビー(Airbnb)は、空き部屋や家全体を宿泊用に貸し借りできるようにするサービスを展開する企業だが、同社は新時代の柔軟なストーリーを理解している企業のよい例である。たとえば、ハリケーン・サンディが襲来した期間、エアビーアンドビーのニューヨーク市の地域コミュニティは協力し合ってマイクロサイトを立ち上げ、被災地近辺に住んでいる人々が部屋やソファーなどを提供し、サンディの被災者が無料で滞在できる場所を見つけられるようにした。緊急の無料避難所を設けるにあたり、予約や支払いのシステムを至急変更しなければならなかったが、この投資は間違いなく、実行に値するものだった。同社のブランド・ストーリーの核にある「コミュニティの力」という概念に沿うだけでなく、ストーリー全体をまったく新たな方向に向けることになったからだ。
3.共有する価値のあるコンテンツを創造する
デジタル時代以前は、コンテンツをシェアする価値があるかどうかはあまり重要ではなかった。なぜなら、シェアするという選択肢が通常は存在しなかったからだ。いまや「共有可能性」は、ブランド・ストーリーを成功させ、顧客の共感を呼ぶうえで欠かせない要素となっている。顧客の感情やアイデアとつながろう。それは商品を売ること自体よりも影響が大きく、興味深いものである。そうすれば、顧客がみずから語り出すだろう。
非営利のカンファレンス組織TEDは、このモデルを完璧なものとした。彼らのキャッチフレーズはもちろん「広める価値のあるアイデア」であるが、まさにその言葉通りの行動をとった。TEDは毎年録画している何千もの講演の動画をウェブサイトに並べるのではなく、説得力があり面白い講演だけを選ぶ。1日に1本、傑出した講演を宣伝するため、ソーシャルメディアやブログなど、あらゆる資源を活用している。このような、シェアする価値のある本物のコンテンツをつくろうという高度に計算されたアプローチにより、TEDは大きな成功を収めた。2012年に世界での視聴回数が10億回を超えた理由もここにある。
今日のデジタルCMOは、より困難な仕事を求められている。しかしやりがいがある。CMOはストーリーテラーとして、説得力があり意味のあるブランド・アイデンティティを創出する機会を手にしている。ストーリーをつくるプロセスに最初から顧客を巻き込むことで実現できるのだ。消費者は、自分たちを信頼してくれるブランドに信頼を寄せるということを何度も示してきた。それはときには恐ろしいことではあるが、悪くないものでもある。
HBR.ORG原文:Three Priorities for the Digital CMO July 18, 2013

デビー・クレイマン(Debi Kleiman)
デジタル時代のマーケティングを支援する非営利組織、MITX(マサチューセッツ・イノベーション・アンド・テクノロジー・エクスチェンジ)の代表