企業買収の目的は、被買収企業の「経営資源」なのか「ビジネスモデル」なのか。それによって買収後の統合作業の要件は異なるという。2013年6月に行われたヤフーによるタンブラー買収を例に、筆者らがM&A戦略の核心を示す。
衆目を集める派手な買収案件は、残念な結果に終わる――これはビジネス界の定説となっている。もちろん、そうでもない時もある。たとえばグーグルのアンドロイド買収は実り多いものだった。しかしこうした成功も、悲惨な失敗例の前では霞んでしまう。AOLとタイムワーナーの合併では、両社合計での時価総額が10年間で80%以上失われたことは有名だ。また、ニューズ・コープは2005年にマイスペースを5億8000万ドルで買収したが、2011年には3500万ドルで売却した。
ヤフーCEOのマリッサ・メイヤーは、マイクロブログ・サイトを運営するタンブラーを11億ドルで買収した時にこう述べた。1万4000人の従業員を抱えるヤフーが、その確立されたやり方を従業員200人の新興企業タンブラーに押し付けて「台なし」にしないよう、最大限に努力する――。この買収で利益を上げるのがいかに困難であるかを、メイヤー自身が認識していることの表れだ。加えて、タンブラー・チームはヤフーのなかで独立性を維持すると強調してみせた。
しかしメイヤーとそのチームは、タンブラーをヤフーに統合すべく大胆に取り組むべきだ。なぜなら、タンブラーをあまりに切り離して運営するのは戦略的に大きな誤りだからである。
我々の調査によれば、買収は基本的に2つのタイプに分けられる(詳しくは、筆者の1人ワルデックが共同執筆したHBR論文「真実のM&A戦略」〈本誌2011年11月号〉を参照)。
1つ目は、被買収企業の経営資源を獲得して「自社のビジネスモデルをテコ入れする」ための買収だ。我々はこれを「レバレッジ・マイ・ビジネスモデル(LBM)型」M&Aと呼ぶ。グーグルによる2005年のユーチューブ買収がこのタイプである。自社の中核事業であるコンテンツ連動型広告を、ユーチューブの急増するユーザーに適用するための買収だ。ユーチューブが広告のプラットフォームとして大きく成長していることから、16億ドルの買収は成功であったと考えられる。
2つ目は、「自社のビジネスモデルを刷新する」、あるいは少なくとも事業戦略を多角化するための買収だ。これが「リインベント・マイ・ビジネスモデル(RBM)型」M&Aである。ベスト・バイがPC修理サービスのギーク・スクワッドを買収したのがこれに当たる。ベスト・バイは創業以来、商品の販売で収益を上げており、ギーク・スクワッドはITサービスを手頃な価格で個人や小規模事業者に提供していた。グーグルのアンドロイド買収もこのタイプだ。コンテンツ連動型広告というビジネスモデルに、アプリへのライセンス提供を加えたのだ。