企業の規模や知名度に関わらず、時代のイノベータ-として期待される経営者との対話の中から、日頃言語化されにくい新たなマネジメント上のファクターを見出し、言葉で紡いでいく。ジャンルを問わず数多くの表現者に会い、彼らのナレッジを企業のPR戦略に具現化する支援を行ってきた河尻亨一氏が、こんな新しいチャレンジに乗り出した。第1回は、グローバル人材教育で急成長を遂げるアルーの落合文四郎社長を河尻氏が直撃。東京大学在学中は物理学者を志したという落合氏の「経営美学」に迫る。

日本製品のブランド力は世界屈指だが
市場でミスマッチが多いのはなぜか

河尻(以下色文字):グローバル人材育成に力を入れ始めた理由は何ですか。

落合(以下略):当社がグローバル人材育成事業に取り組み始めたのは2009年です。少子高齢化が進む日本の今後の成長を考えた際、海外の需要を取り込むことが必要になるのは間違いありません。しかし、国や業種によっても差があるとはいえ、新興国における日本企業のプレゼンスはおおむね低いというのが現状です。

落合 文四郎  Bunshiro Ochiai
アルー代表取締役社長
東京大学大学院理学系研究科修了後、ボストン コンサルティング グループ入社。国内大手通信会社の新規事業立ち上げ支援、国内中堅企業向け人事制度構築や国内一部上場食品メーカー向け人事制度基本コンセプト策定などのプロジェクトに参画。2003年10月、エデュ・ファクトリー(現アルー)を設立。現在、海外新規事業開発、中国・インド・シンガポール事業(現地法人)、グローバル人材育成を統括。

 それが顕著に現れている例が家電市場です。海外の家電販売店に足を運べばわかりますが、サムスンやLGの製品が売り場を占めており、日系企業の商品はマーケットに浸透していません。まったく扱いがないわけではないのですが、大きく水をあけられているという印象を受けます。

 もちろん、日本の有名ブランドは知名度が高く、品質に対する信頼性や安心感は維持されています。しかしその一方で、現地の消費者にとってはオーバースペックな製品が多いというか、ニーズとのミスマッチが生じているんです。

 となれば、やはり現地のニーズをつぶさに知り、本国の開発サイドにフィードバックできる人材がもっと求められるのでは、と私は考えたのです。有名な話ですが、例えばサムスンでは、最初の1年は現地のマーケットをつぶさにウオッチし、駐在員がその国や地域のカルチャーに溶け込むためのトレーニングを積む仕組みを採用していますが、そういった人材育成手法を取り入れている日本企業は少ないのです。

 つまり、大切なのはやはり人材なんですね。最近では日本企業も変わり始めていますが、そういったグローバル人材の不足が、日本の成長を阻害する一つの要因になっていると考えざるを得ないとすれば、これは残念なことだと思います。