日本企業の最重要課題がグローバル化であるというならば、グローバル人材の育成が喫緊の課題であろう。これを量産できない限り、グローバル化は進展しない。だが一方で、若い世代から「新たなグローバル人材」が台頭し始めている。新しい視点で世界を見渡し活躍の場を広げる彼ら彼女らは、「グローバル」という既成概念をも書き換える。グローバル新世代は、キャリアをどのように築いたのか。仕事の流儀、発想、思想等々についての対談から、日本の企業経営の明日の道筋を探る。 

戦略的なグローバル化の正念場を迎えている日本企業

 外務省が毎年10月に発表する『海外在留邦人数調査統計』(速報版)を見ると、ビジネスのグローバル化を背景に、海外で働く(長期滞在する)人の数が急速に増えているのが分かります。

石倉洋子
一橋大学 名誉教授

 2012年10月現在の速報値では、研究留学、政府、報道、自由業などを除く民間企業の長期滞在者は約26万人で、前年に比べ2万人も増加しています。うち女性が約3万1000人。同居家族約19万5000人を含めると、約45万人もの人たちが「社命」を帯びて海外で働き、暮らしています。10年前には家族を含めても約31万人であったことと比べれば、日本企業がいかにグローバル化を進めているかがうかがえます。

 少子高齢化や日本経済の成熟から国内市場は縮小しており、日本企業が持続的な成長を求めるならば、グローバル化以外にオプションはありません。それは必然的に、日本企業のグローバル化の在り方をも変えていきます。

 1980年代の円高を契機として始まった日本企業の海外進出は、コスト対応などが主眼であり、それは「場としての展開」にすぎませんでした。そこに世界経済を俯瞰した経営決断や統治があったわけではなく、最適な場所におけるベストな経営モデルの構築が模索されていたわけでもありません。

 しかし、今現在、進行しているグローバル化は、事業活動の軸を国内市場から世界の成長市場へと移すための経営と統治の確立、言葉を換えれば「企業変身」を進めるためのものです。

 活躍する場も多様化しています。特に新興国への赴任が増えています。先の海外在留邦人の統計でも、長期滞在者の絶対数では米国、中国、オーストラリアが上位3カ国ですが、総数の増加変化率が高い国の順位は、マレーシア、インド、カンボジア、ベトナム、フランス、インドネシアなど、主にアジアの新興国です。

 十分な土地勘があるとは思えない新興地域や市場で、価値を提供するための戦略を立案・実行する能力、そのためのノウハウをどのように開発し、蓄積できるか。そこが日本企業のグローバル化・変身の試金石となっています。

 それを人材という観点で考えるならば、いわゆるダイバーシティに基づき、国籍や性別を問わず、グローバル世界で活躍できる人材を確保し、若いころから海外で活躍してもらうことこそ重要です。

  その前提で、グローバル時代に世界で活躍し、日本にイノベーションをもたらす人材の要件を探るのが、「New Globalistに学ぶグローバル人材の要件」という対談シリーズです。今まさに、世界を舞台に働いている人、他国で教育を受けた人、一見、ドメスティックな活動のようでいて“Think Global Act Local”で活動を続けている人、さらにグローバルな展開と起業がクロスした人など、「次世代のリーダー」と呼ぶにふさわしい人たちに会い、グローバル人材の要件を探ります。