現場を皮膚感覚で理解するための構えと仕組み
対談シリーズを始めるに当たり、私自身の日本企業のグローバル化とグローバル人材の育成を考えるための視点をまとめておきましょう。
<1>現場を見ないから的確な対応が取れない
かつては世界を席巻した日本の電機・電子産業が、「凋落」と表現されるまで世界競争で敗退を続けた理由は何であったのか。それをグローバル人材という視点で考えてみると、グローバル化を進めようという経営層が、古い「場の展開としてのグローバル化」の発想から抜け切れず、市場の実態を自らの目で見ようとしなかったことにあります。
いわゆるプロダクト・アウトの発想で、優れた製品を持ち込みさえすれば売れるという過信に陥り、地域の中で暮らし、地域の問題とニーズを探り、それに応える製品を届けることを怠ってきました。これは、インドにおける白物家電のサムスンやLGの成功例を見れば一目瞭然で、「そうか」と気が付いたときには、すでに手も足も出ないほど市場を固められていました。
<2>とにかく若い人を行かせる
市場の実態をつぶさに見て、聞いて、自らの感性との“化学反応”による発想をベースに市場を開拓していけるのは若い人たちでなければなりません。
グローバルな事業展開で求められるのは、現地の市場についてのありのままの深く正確な認識です。現地の人たちがどのような文化と経済力を背景に暮らし、どのような商品やサービスを欲しいと願っているのか。マーケティング調査では決して分からない実態は、鋭敏で繊細な感覚を持つ若い世代ほど皮膚感覚として実感できるのです。
だからといって、「ベテランは引っ込んでおれ」というのではありません。ジャック・ウェルチの「リバースメンタリング」のように、ベテラン世代は若い世代の感覚や視点に学びながらも、ベテランであるが故に備えているトラブルシューティングや社内リソースの効率的な活用などに知恵を絞るのです。両者の“協働”があればこそ、日本企業の「経験」や「知識」という事業資産を、現地の事業へと転嫁していけるのです。
<3>当たり前にある仕事などない
海外で活躍しようとする若い人たちにも、いくつかの構えが必要です。まず、「今の仕事を前提としないこと」です。
日本で働いていれば営業でも購買でも総務でも、与えられた仕事は会社組織において当然あるべき仕事だと考えます。そこでスキルを磨き、専門性を高めていく。しかし、転職経験者であれば分かるでしょうが、当たり前と思っていた仕事は必ずしも当たり前ではありません。まして海外市場での仕事、特に起業ともいえる立ち上げからの取り組みでは、日本企業の前提で仕事を考えても通用しないことが多いですし、自らの仕事や専門性を必要とされないことも珍しくないのです。
途上国などで仕事をするには、そこで必要とされる仕事を考え、自ら創造していく力が試されます。よく“指示待ち社員”などと揶揄されますが、それには会社側が指示したこと以上のことをやらせていないという事実と、言われたことしかやらない社員という2つの事実があります。しかし、指示待ちを抜けなければ起業家的な活躍はできないでしょう。