このような方針はザッポスには有効でありうるが、あなたの会社にとってはどうだろうか? それを判断するには、正しい原理に基づいて論理的に考える必要がある。そこで、ザッポスのイノベーションを有意義な議論のきっかけとするために、同社の戦略を人材サプライチェーンの観点から見直してみよう。

 ザッポスにとっての「人材プール」には、履歴書を「スパム投稿」する応募者が含まれている。新制度によってそれらの応募者が除外され、ザッポス社員との交流に労力を注ぐ人々(インサイダー)から成る「志望者プール」が形成される。ザッポスはより優れた「スクリーニング」と「厳選」を望んでおり、ゼイパーはそれを次のように説明している。「当社は候補者たちとコミュニケーションを取りながら、彼ら彼女らの強み、興味関心、人柄などを把握していき、最終的に候補者と職務をマッチングしていきます。判断材料としては、実際のスキルの適合性が50%を占めますが、残りの50%は企業文化への適合性を重視します」

 さらに、「採用通知とクロージング(契約締結)」および「新人研修」の段階においても、ザッポスは新制度によってメリットを享受しうる。なぜなら、数十年にわたる研究によれば、候補者は採用までの過程に労力を注げば注ぐほど、その企業からの採用通知をためらうことなく受け入れるからだ。そして実際の職務を事前にしっかり認識させておくことが、候補者のコミットメントとパフォーマンスを高めることも明らかになっている。

 一方、人材サプライチェーンを考えることで、求人公募廃止という方針がどの企業にも有益なわけではない理由も明らかになる。

 志望者のなかには、「インサイダー」のサイトに時間を費やすことを望まない人たちもいるだろう(特に、他の魅力的な応募先も考えている場合)。ザッポスでは空きのポジション1件につき、100件の就職申し込みが寄せられるので、そのような志望者たちを取りこぼしても候補者の不足は生じない。だがあなたの会社の募集職がそれほど知られておらず、独自性がより高いか、魅力度がより低い場合はどうだろうか。人材のサプライチェーンを最適化するには、応募プロセスをできるだけ申し込みやすいようにして、場合によってはオンラインでの求人公募も行い、より多くの応募者を人材プールに取り入れる必要があるかもしれない。