――どんな情報を予測材料にしているのですか。
公開されているさまざまな情報源を利用していますが、予測材料のほとんどはその人の職歴です。たとえば「VCの出資による会社で勤務した経験があるか」「その会社での役割は何か」というようなことです。学歴ももちろん重要な要因です。
予測してみて1つ興味深かったのは、予測結果が典型的なベンチャー起業家のイメージとは大きく違っていたことです。一例として、年齢の高さが挙げられます。同じ仕事に長年就いていることは――たとえ1つの会社に10年以上いたとしても――起業に不向きではないとわかりました。
第二に、起業候補者たちの人口統計的な背景は、驚くほど多様でした。人口統計データは予測材料としていないのに、モデルが選んだ人々は実にさまざまな背景の持ち主だったのです。サンフランシスコで第1回目のイベントを開催した時に集まったのは、ハイテク業界で私が参加してきたどのイベントよりも多様な顔ぶれで、それは本当に喜ばしいことでした。
そして最後に指摘したいのは、工学系、ハイテク系の人は想定よりも少なかったということです。コンピューター・サイエンスなどの学位や技術系の資格の持ち主がほとんどだろうと思っていたのですが、ハイテク企業に勤務する人は大勢いたものの、ビジネス系の人の割合が実際にはとても大きかったのです。ビジネス分野での経歴を積んでいることは、VCの出資による起業と高い相関関係にあることがわかりました。
――この予測モデルを適用したあとは、何を実施しましたか。
第1回の集会をサンフランシスコで、次にニューヨークで開催しました。笑える話ですが、「あなたは未来の起業家の1人に選ばれました」という当社のメールを受け取った人たちの多くは、それが詐欺だと思ったようです。ですから最初は信じてもらえなかったのですが、まもなくこれが100%真剣であることを理解してもらえました。
私たちは起業候補者たちとの初期の対話を通じて、このプログラムの最も有意義な点に気づきました。それは参加者同士が人脈を築き、さらには実際のベンチャー起業家とも関係を築く機会を提供できることです。そこで私たちは、起業候補者の中から数名を招き、当社が出資している企業の人々、そして業界の友人たちと引き合わせるランチを隔週で主催しています。これは非常に好評です。
当社の目的はひとえに、起業候補者たちのキャリア上の目標を支援することです。最終的に会社を立ち上げるかどうかにかかわらず、全員が並外れて高いポテンシャルの持ち主なので、そのうち幾人かは当社が提携する企業の幹部になるかもしれません。当社が出資する企業の社員となる可能性もあります。魅力的なアイデアで私たちに刺激を与える友人になってくれるだけでもいいのです。
――いままでの起業成功者のパターンをデータから導き出すことと、従来の型にはまらない新しい成功パターンを探ることとの間には、葛藤があるのではないでしょうか。何らかのバイアスが反映されているかもしれない過去のデータを、ただ振り返るだけでいいとはお考えでないはずです。
ええ、それは大きな懸念の1つでした。もちろん、すべてをデータのみに頼るわけにはいきません。この取り組みには創意工夫が必要です。私たちが危惧したのは、過去の起業家たちのデータを用いて将来の起業家を予測すると、まったく同じような人々が選ばれてしまうという可能性でした。経歴も何もがそっくりな集団になるのでは、と。ところが興味深いことに、結果はそうはなりませんでした。過去の起業家たちの経歴をモデルに適用して、選ばれた新たな人たちは驚くほど多彩な顔ぶれだったのです。データは差別しないということです。
――この取り組みが有効かどうかを、どう判断するのでしょうか。
もう効果は出ています。幅広い経歴を持つ非凡な素晴らしい人たち――きっと成功する人たちと、知り合いになれたのですから。
HBR.ORG原文:Finding Entrepreneurs Before They’ve Founded Anything September 19, 2014
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ウォルター・フリック(Walter Frick)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。