革新的なビジネスモデルと慣行で話題を振りまくウーバー(Uber)は最近、過激な採用活動で議論を呼んだ。乗客を装った勧誘部隊を利用して、競合他社の運転手を引き抜いていたという。過熱する人材獲得競争は、どの組織にも人材維持に関する問いを突き付けている。
自社の従業員が、他社の雇ったヘッドハンターと話していたり、リンクトイン(ビジネス向けSNS)の自分のページを手直ししていたり、ライバル会社の社員たちと交流していたら――企業はどれほどの損失を被ることになるのだろうか。モバイルアプリによる配車サービスで人気のウーバー(Uber)とリフト(Lyft)が繰り広げた対立は、過激な採用活動がもたらす経済的損失について白熱した議論を呼んでいる。
ニュースサイト「ザ・バージ」の報告によると、ウーバーはプリペイド式の使い捨て携帯電話とクレジットカードを携えた「ブランド・アンバサダー」たちを、勧誘部隊として派遣していた(英語記事)。アンバサダーたちは「リフトや他の競合サービスの車を呼び、運転手をウーバーに勧誘し、しかも発覚を避けるためいくつもの予防策を講じている」という。
CNNの報道によれば、「リフトが自社の記録を検証したところ、2013年10月から2014年8月の間に、車が5560回呼ばれてキャンセルされた」という(英語記事。リフト側はウーバーによる妨害工作だと主張)。勧誘については、ウーバーはCNNの取材に対し、一般の利用者に協力を求めていたことを認めた。「数千人の乗客に、複数の配車サービスから運転手を勧誘してもらい、ウーバーを試す運転手を1人得るごとに数百ドル分のウーバーのクレジットを提供する、というプログラムを最近実施しました」
このニュースを考える時、ウーバーによる過激な採用活動の是非より、もっと興味深いことがある。あらゆる企業にとって人材がますます重要な競争要因となっており、製品・サービスやブランドの競争優位と同じように戦略の成功を左右するという現象だ。
人材の囲い込み戦略で語られるのは、グローバルな巨大サプライチェーンを持つ企業、あるいはソフトウェア・エンジニアや研究科学者のような先端技術に関わる知識労働者についてであることが多い。しかしウーバーとリフトの対立は、地域での共有型経済(カーシェアリング)という世界で起きている。車を運転する人は各主要都市に何百万もいるというのに、そのごく一部がライバルに取られることなど気にかける必要が本当にあるのだろうか。
答えはイエスである。なぜならサービスへの意欲と適性を持つ運転手の数は限られており、しかもウーバーとリフトにとって顧客とじかに接する「会社の顔」は運転手のみだからだ。優秀な運転手を囲い込めば、市場の確保につながる。
ピーター・ラムスタッドと私の共著Beyond HRでは、特殊ガラスを扱う会社コーニングが1990年代に中央ヨーロッパで、核となる少数の優れたエンジニアを囲い込むことでフロートガラスの製造を軌道に乗せたという例を紹介している。したがって、この現象はけっして目新しいものではないが、昨今はますます多くの分野へと、急速に、多様な形で浸透している。