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10年後の「隠れたチャンピオン」
「隠れたチャンピオン」──それは、信じがたいほどの成功を収めているにもかかわらず、メディア、経営学者あるいは産業界で一般的に知られているとはいいがたい中小企業を指す。それらは、参入している業界において50%を超えるシェアと高収益を誇るマーケット・リーダーである。「隠れたチャンピオン」というコンセプトは、本稿の筆者の一人、ハーマン・サイモンが1992年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した論稿で取り上げたのが最初である[注1]。
80年代の終わりに高まった国際競争力についての議論を踏まえ、戦後復興後、長期にわたって驚異的な輸出競争力を維持してきたドイツの成功が主に中小企業の力に由来するという認識の下、39社の先駆的なドイツ企業の事例を詳細に分析するという調査プロジェクトの最初の報告として、サイモンはこの論稿を著した。
さらに、その後、調査プロジェクトは500社にも及ぶ大がかりなものに発展した。とりわけ100社以上の「隠れたチャンピオン」の経営陣に対してインタビューを実施することによって「隠れたチャンピオン」の実像に迫ることができたのはプロジェクトにおける重要な成果であった。なぜなら、「隠れたチャンピオン」の多くが非公開の企業であったり、取材を受けることを拒否したり、「隠れたチャンピオン」であり続けようとしていたからである。
この大規模なプロジェクトの結果ドイツ以外の国にも、それこそ世界中に「隠れたチャンピオン」企業が存在すること、しかも、どの会社も驚くほど似ていることがわかってきた。
96年に出版したサイモンの著書『隠れたコンピタンス経営』[注2]は、このプロジェクトの分析結果をまとめたものだ。ドイツの中小企業の成功パターンは、世界のどこでもどの産業の企業にも適応可能なことを示した同書は、日本語、韓国語、中国語を含む15カ国語に翻訳され、世界中の多くの経営学者やビジネス・プロフェッショナルに読まれている。
ビジネス書の多くは、これこそが高収益企業の秘訣と、さまざまな分析を示すが、そこで取り上げられた企業のうち、どれほどの企業がその後も繁栄を続けていられただろうか。これに対して「隠れたチャンピオン」という重要なコンセプトの真価は、10年前の書籍で紹介されたドイツ企業のその後の発展によって裏づけることができるであろう。
当時のチャンピオンは、グローバル経済の荒波をものともせず今日まで見事に発展を続け、高収益企業として成長している。10年前のチャンピオンの平均規模は、ユーロに換算すると3億~4億ユーロだったのが、現在は平均10億~30億ユーロという規模になっている。その代表格がSAPであろう。
いまでこそ、基幹業務ソフトウエアの分野で世界的なマーケット・リーダーとなったSAPだが、10年前は「業界で知る人ぞ知る」程度の企業であった。90年代の初頭においてすでにSAPはチャンピオンであったが、その市場はまだ顕在化していなかったのである。