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株主価値重視か、ステークホルダー重視か
経営スタイルをめぐるこの矛盾は、古くて新しい。1990年代に急速に進んだ資本の国際化は、アングロサクソンのカルチャーを持たない国々の企業にも、いやおうなくこの命題を突きつけた。
ドイツは日本より早くこの洗礼を受けている。90年代末を振り返って、ローランド・ベルガーは「だれもが突然、株主価値だけを言い始めた」という。だが、世界的コンサルタントとして各国の国際企業のリアリティを見続けてきたベルガーの目には、この問題は本質的なものとは映っていない。なぜなら、いずれもが重要であり、どちらをより重視するかは時代や企業によって異なる、正解のない問題だからである。
むしろ彼の視線は、「いかに社会システムを変革するか」という問題に注がれている。それはグローバル化という大波のなかで、共通する深い問題を抱える日本とドイツの生き残りがかかっているからである。
ホワイトカラーの生産性を高めよ
DHBR(以下太文字):ドイツ企業と比べて、日本企業の長所、短所はどこでしょう。
ローランド・ベルガー(以下略):まず最初に、日本人はとても勤勉です。野心的で、成功への熱意を持ち、けっして諦めない粘り強さがあります。すべてのヨーロッパ人もそうであるとはいえません。次に、日本企業は学ぶことに熱心です。自動車産業が好例でしょう。最初にヨーロッパ市場に投入された日本車は、ヨーロッパ人を引きつけませんでした。彼らは日本にいったん戻り、より優れた自動車をつくって再投入しました。それを何度も繰り返し、そのたびにより優れた製品になっていったのです。最終的にはヨーロッパ車と同じかそれ以上のものをつくり上げました。他の産業でも同様でした。3つ目の長所として、日本企業はマネジメントに優れています。特に工場労働者や製造部門、R&Dなど技術部門、そしてマーケティングで管理がしっかりしています。
一方、日本企業の非効率さと、ホワイトカラーの生産性が相対的に低いことは、今後も課題でしょう。これをブルーカラーの高い生産性で埋め合わせているため、最終的には競争力のあるコスト体質になっているのです。
また、意思決定の遅さも問題です。これは時において海外で現地人を経営幹部に登用せず、必要な決定権を与えないこととも関連しています。よくてもトップ・マネジメントを一人の日本人と一人の現地人とで分け合う程度です。このように出世の機会が限られていては、現地の優れた人材を集めることはできません。もちろん、アメリカにおけるソニーやトヨタ自動車などの例外もあります。しかし多くの日本企業は、日本人と日本文化しか信頼しないのです。このため日本企業では多くのことが、現地と日本の本社とで2回議論されます。このようなやり方は独特であり、他国の企業から見て理解しにくいのです。
日本は近年、多様なステークホルダーの利害を調整するバランス経営から、アングロサクソン流の株主重視経営にシフトしてきました。この変化をどう評価していますか。
ドイツでも7~8年前に同様の経験をしました。みんなが突然、株主価値だけを言うようになったのです。しかし我々ドイツの伝統と文化、そして企業文化は、ステークホルダー重視でした。ドイツ企業は、倫理的、社会的、文化的責任というセンスを持っていす。そしてその責任は、社会全体に対するものであると同時に、顧客や従業員、取引企業、投資家に対して負っているのです。つまり企業は社会の一員であり、みずからの属する社会に対しても義務がある、というものです。