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ドイツ企業も日本企業も「第3の道」を模索している
ドイツと日本には、共に第2次世界大戦の敗戦国という以上に、共通点が少なくない。
戦前から、規制当局、金融機関、そして事業会社による「鉄のトライアングル」が1990年代まで続いてきた。資金調達は間接金融が中心であり、株式の相互持ち合いや互恵取引も慣行化していた。
しかしその後、IT革命は言うまでもなく、資本市場のグローバル化とリスク・マネーの台頭によって、閉鎖的だったマネジメント・システムはこじ開けられた。ここにニュー・エコノミーが棹差し、株主資本主義へと大きく傾いていった。
これだけではない。少子高齢化は、ドイツでも深刻である。2025年までに65歳以上の高齢人口が総人口に占める割合は、ドイツが24%、日本では29%に達すると予測されている。国連人口推計によれば、日本、イタリア、ドイツの順で、高齢化率21%という超高齢社会に突入する。しかも、これまでの福祉政策のつけが国庫を圧迫しており、高齢者雇用、医療費、年金などが重くのしかかっている。さらに、10%を超える高い失業率が追い討ちをかける。
長い伝統を誇る「マイスター制度」に代表されるように、元来製造業中心の経済であり、ただし天然資源に乏しいため、資源国の動向に生産活動が大きく影響される。また、これまでの経済成長において、国内中小企業が重要な役割を果たしてきたが、これも周辺新興諸国に代替されるようになり、多くの中小製造業が苦しい状況を強いられている。なおドイツには、従業員数500人以下の中小企業が250万社存在する。くわえて「メード・イン・ジャーマニー」を代表してきたダイムラー・クライスラーやフォルクスワーゲン、シーメンスといった大企業も精彩に欠ける。
ドイツでは改革論者として名高いWHUオットー・バイスハイム経営大学院教授のユルゲン・バイガントいわく、「ドイツ製造業は国際競争力を完全に失いました。コスト削減に走り、付加価値の高い商品を開発できずにいます。この傾向は、お家芸であった自動車産業に限ったことではありません。ヨゼフ・シュンペーターが唱えた『創造的破壊』がまさに求められているのです」。
このようななか、ドイツ産業界は「第3の道」を模索しつつある。すなわち、行きすぎたアングロサクソン経営を見直しつつ、もはや不可逆とはいえ、かつてのドイツ的経営の長所を発掘し、新たなドイツ的経営を再構築するというものだ。これもまったく日本産業界と同じといえる。ただし、バイガントは「日本がドイツに何かを学ぶとすれば、反面教師としてでしょう」と言う。
「私は経営者と従業員による『共同決定方式』に賛同したこともなければ、また『ハイヤー・アンド・ファイヤー』(雇用のみならず解雇を自由に決定できる)を前提としたアングロサクソン・モデルがドイツにふさわしいとも思いません。中庸の道があるはずです。その意味で、日本はドイツに注目する意味はあるでしょう。ここ10数年間のドイツ産業界において高業績を続けている企業というと、有名なところでは、SAP、BMW、ポルシェになるでしょうが、そのほか化学製薬会社のアルタナ、トラクター製造のクラアスが挙げられます。もちろん、私に具体的な第3の道はわかりませんが、これらの企業に共通するのは、『まじめで』『創造的』な姿勢です。経済学者として、このようなあいまいな表現は慎まなければなりませんが、まさしく中庸であり、新しいモデルのヒントが隠されているように思います」