●ヒューレット・パッカード(HP)のMatter to a Million
 メグ・ホイットマンが2011年9月にCEOに就任するまで、HPは先導者なくさまよっているように見えた。再建に乗り出したホイットマンはパソコン・プリンタ事業の分社化・上場などを行ったが、HPの志の文化を強化することにも力を注いだ。

 2014年初めに、同社はHP財団および非営利団体キバとグローバル提携を結び、Matter to a Million(マター・トゥー・ア・ミリオン)という非営利プログラムを立ち上げた。各社員が世界の最貧地域に住む低所得の起業家に少額融資を行い、現地で経済発展の原動力になってもらおうという取り組みだ。

 ホイットマンはマイクロファインナンス専門の金融機関に資金を提供する代わりに、資金援助を直接行う権限を全27万人の従業員に与えたのだ。各従業員はキバから25ドルを提供され、自身で適切と判断した事業者に融資できる。最初の6カ月間で、11万5000人を超える従業員が総額550万ドル超を貸し出した。

 こうしたイニシアチブは高潔だが、経営再建に奮闘している企業がやれば、無分別な気晴らしでしかない――そう批判する向きもあるかもしれない。だがMatter to a Millionのおかげで、HP全体に変革のエネルギーがみなぎりつつあるのだ。その証拠を求めるなら、融資状況を記録しているキバ・HPチームのウェブサイトをちょっと覗くだけでよい(英語サイト)。たとえばブリズベン勤務のルース・ネルソンは、次のように記している。「今しがた融資を実行しました。この寛大なプログラムを通じて変化をもたらせることに、とてもワクワクしています。一緒に働いている皆に早く話したくてたまらないです」。このように感じる従業員がいることは、計り知れない価値がある。

 より良い世界を目指すことが、より良い会社を築くことにつながる――Flush for GoodとMatter to a Millionは、このことを示す好例だ。逆境の最中にあっても、リーダーは志の文化を追求する勇気を持たねばならない。なぜなら社員に活力を与え、事業を成功へと導く力を引き出すために、これより確実な方法はないからだ。


HBR.ORG原文:A Company’s Good Deeds Can Energize Employees December 3, 2014

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クリストフ・ルーネバーガー(Christoph Lueneburger)
エゴンゼンダーのニューヨーク・オフィスでプライベート・エクイティ・プラクティスを率いる。同社のサステナビリティ部門の創設者。著書にA Culture of Purpose: How to Choose the Right People and Make the Right People Choose Youがある。