人が「あともうちょっと頑張ろう」と思うのは、オーナーシップを持っている時だけだ。その意味で従業員エンゲージメントは、労働生産性の観点からも非常に重要である。その際の試みとして見落としがちな3つのポイントをベイン・アンド・カンパニーが提示する。
借りたレンタカーを洗う客はいない。人が「あともうちょっと頑張ろう」と思うのは、オーナーシップを持っている時だけだ。職場でも同じことが言える。自分が重要な仕事を担っていると感じ、オーナーシップを持っている人の方が、より仕事に関心を高く持って取り組んでいるものである。
優秀な人材を適切なチームに組成することはできる。組織内の壁をなくし、効果的に協働し、チームメンバーがそれぞれの仕事を着実に完了させられるように、会議やその他のコミュニケーションを設計することもできる。だが、チームメンバーがオーナーシップを持たず、関心度合いが高くなければ、有意な差を生むことは難しい。反対に、チームメンバーのエンゲージメントを高めることができれば、目に見えて労働生産性を押し上げることができるはずだ。
従業員エンゲージメントとはどのくらい強力なものなのか。腎臓病患者に対する透析治療の最大手ダヴィータの例を取り上げてみよう。15年前のダヴィータ(当時のトータル・リーナル・ケア)は業績が悪く、資金ショート寸前で、経営陣の約半分が解雇や転職で会社を去るような状況だった。そこで全く新しい会社に生まれ変わるべく、新CEOとしてケント・ティリが指名された。
彼はダヴィータを1つの村、彼自身をその村長に例えて話し始めた。全従業員に組織文化の変革に参画するよう促したのだ。そして毎年必ず、患者のために「もうひと頑張り」をした従業員数百人を選出して表彰した。また、あるジャーナリストによると、「毎年開催される社員総会では何千人もの従業員が一堂に会し、表彰のお祝いから、亡くなった患者さんへの追悼まで、仕事の中で生まれる感情を共有してきた」という。また彼がこの総会で参加者に問いかける定番の質問が3つあり、その1つが「ダヴィータは誰の会社か?」というものだ。参加者は口をそろえて「私たちの会社だ!」と答えるそうだ。
このような従業員エンゲージメントを高める活動を続けてきた15年間のダヴィータの成長は、目を見張るものがある。売上は14億ドルから118億ドルまで拡大、利益も3000万ドルの赤字から6.6億ドルにまで成長した。患者の治療実績も改善、従業員離職率も低下、さらにダヴィータはフォーチュン誌が毎年発表する「最も素晴らしい会社」にも選出された。