「お・も・て・な・し」は
上から目線で押しつける発想だ

石倉 おもてなしといえば、私が日本の航空会社のフライトで一番嫌なのは、放っておいてくれないことです。たとえば疲れているので寝たいと思っても、静かに眠らせてくれない。相手がどうしたいかを察することがおもてなしの原点だと思うのですが、「これはよいサービスなのです」と押しつけてくる感じが不快ですね。

アトキンソン 自分たちが「これが一番だ」と言うのは傲慢です。「これが一番」という評価は相手(他者)がするものです。相手の事情はお構いなしに一方的な宣言で悦に入る。「私は謙虚です」と本気で言う人はいませんよね。でもそう言っているようなものです(笑)。
 あるテレビ番組で「おもてなしは、言われているほどのものじゃないでしょう」と発言したら、2チャンネルにまで飛び火して、一部の人たちからぼろくそに言われましたが、一方で賛同してくれる人も多かった。別の番組ではホストとゲストが、「おもてなしと言うけれど、それは気に入った女性の前で、自分ほど立派な男は見たことがないだろうと言っているようなもので、そんな男に寄ってくる女性などいない」と話していました。まったく同感です。

石倉 完全にズレていますよね。それはやはり供給側の考え方がすごく強いからだと思います。

アトキンソン 日本のものづくりや工芸の世界にも共通しています。先日、トヨタ自動車の技術者の方とお話しする機会がありました。その方は「私たちはエンジニアとして最高と思う所までやりました。これがわからない人はおかしい」という雰囲気を醸し出していました。工芸の世界でも、「この素晴らしさ、あなたはわかりますか」と平気で言う。しかし、技術的に出来がよくてもデザインセンスが悪すぎるものがあるのです。

石倉 あなたは素人で、私たちはプロです、という感覚なのでしょうね。

アトキンソン そうです。彼らが決めたものが世界最高であり、それがわからないのはあなたが悪い、という典型的な供給者の発想です。だからフライトは気持ちよく寝て過ごしたいのに、「お食事の時間です」と起こされる。

石倉 食事がしたければ、こちらから声をかけますし、その時に、どんなサービスをしてくれるかがおもてなしだと思うのです。それが押しつけになる原因の一つは、権威主義だからだと思います。メーカーは、「製品のこともユーザーの望みも自分たちが一番知っている。そういうものを作ってあげるからそれを使いなさい」と我々に言っている。こうした「上から目線」と似たような発想が、「おもてなし」にも見え隠れします。

アトキンソン 「私たちの素晴らしいサービスを受けられて、あなた幸せでしょう」と相手の感想を聞く前から決めつけている、典型的な上から目線ですよ。それは茶道でも感じます。「客三分、亭主七分」というのですが、お茶会の楽しみは亭主が主で、亭主が用意した趣向を理解できるのがよい客、できない人は二度と呼ばない(笑)。相手をもてなすより、自分がしたいようにすることのほうが大事なのです。

石倉 でも当事者たちは、上から目線だなんて思っていないですよ。だから、そういう話も自分たちのことだとは考えもしないでしょう。

アトキンソン 海外へ行くと、いろいろな場所でいろいろなことを聞かれます。ホテルなら「お部屋のエアコンはきつくありませんか」「お部屋は快適でしたか」。レストランならば「お味はいかがですか」「ワインは料理に合っていましたか」。でも日本のホテルや旅館、レストランで、そんな問いかけは一切ありません。逆に客が「ご馳走様でした」と感謝している。変ですよ。