「システム・ダイナミクス」との出会い
時間軸を持たないロジックツリーとの違い

 もう1つの印象に残った授業は、「システム・ダイナミクス」の授業です。

 システム・ダイナミクスは、1950年代半ばにMITの教授だったジェイ・フォレスターが開発したシミュレーション手法です。これは、フィードバック・セオリーに基づいた因果関係のループを思いつくだけ組み込み、まさに「因果はめぐる」という世の中の本質を、コンピュータでシミュレートするというモデルなのです。

 経済や社会、自然環境など、時間の経過とともに変動するシステムにおいては、どんな事象も現象もリニア、すなわち、直線的に事が進んでいくことはなく、複雑なフィードバックのループが相互に作用しながら動いていきます。システム・ダイナミクスでは、その多種多様な循環がお互いに影響し合う、システムの挙動をシミュレートすることができます。その結果は我々の安易な直観に反することが多く、それを理解することで対象とするシステムのダイナミックな特性を解明しようとする方法論です。

――ダイナミックな特性とはどういうことでしょうか。

 断るまでもないとは思いますが、ダイナミックの意味は、通常日本で使われているような「大胆な」とか「力強い」という意味ではありません。それは、時間とともに変化することであり、時間が止まっているような静的(スタティック)に対して動的(ダイナミック)であることを意味します。たとえば、「建築は凍れる音楽」といわれるように、建築はスタティックですが、音楽はダイナミックです。

 システム・ダイナミクスでは、対象とするものごとがお互い影響しあいながら、時間とともにどのように変化するかをシミュレートすることができるわけです。すごい手法だなあと思いました。

 ロジックツリーだけで物事を見ていたのでは、実際的な解決に結びつかないと確信しました。

――どういうことでしょうか。

 ロジックツリーはわかりやすいけれども、問題が2つあると思います。

 1つは、ツリー状に分解された各要素を、独立事象、すなわち、他の要素とは関係なく変化させることができると考えるのは、現実から乖離した考え方です。たとえば、コスト要素である、設備費、人件費、光熱費はお互い関係ある要素です。合理化のための設備投資をすれば、設備費は上がりますが、省力化ができて人件費も減るだろうし、エネルギー効率も上がって光熱費は下がります。

 もう1つの問題は、スタティック、すなわち、時間軸が入っていないということです。あらゆる事象も現象も、時間とともに変化しているのですから、要素に分解した場合、それぞれの要素が同時に起こるのか、タイムラグ、すなわち時間がずれて起こるのかが物事の成り行きを変えてしまいます。その意味では時間軸を無視することなどできないはずですよね。