「創る」を促進する
プラットフォームの重要性の高まり
藤井 コールハース氏の「創りかた」の特徴を教えてください。
白井 建築家というと、いわゆるアーティストと見なされ、特にスターアーティストと言われる方々は、独自のスタイルを崩さずに、長年に渡り建築家としての活動を続けている方が大半です。
一方で、彼はアーティストとして自分を表現することよりも、徹底して計画の背景となる与条件を掘り下げ、そこから新たなクリエーションを生み出す手法を取っています。そのため、常日頃から現代都市・建築のリサーチと観察を大変重要視しています。例えば彼は、ナイジェリア最大の都市のラゴスに10年間通って観察を続けています。ラゴスという人口が急成長を遂げ混沌とした都市において、何が本質的に求められているかを客観的に調査することで、さらなるクリエーションのための土台作りをしているのです。
彼自身にも建築家としての好みはあります。それでも彼は、自分が色々な人と共に創るための“プラットフォーム”たることを意識し、色々な人の集積でモノが創られていく、まさにオープンな創りかたにこだわっています。私自身もその影響を強く受けています。
藤井 建築物に求められる役割も、オープンな創りかたが適したものに変わってきているのではないでしょうか。例えば企業の本社(ヘッドクォーター)のあり方という観点でも、外観よりもむしろ、創発・共創を産み出すプラットフォームとしての「コミュニティ」がキーワードになってきていると感じます。
白井 建築物としてのヘッドクォーターについては、1990年以降「アイコニック(Iconic)・ビルディング」がキーワードとなっており、一見してどの企業のヘッドクォーターであるかが記憶され想起されるような、独特で派手な外観のものを創ることが世界的に流行しました。それが1つの役割だったのです。有名な例としてはスイス・リ社の本社ビルで、ロンドンのシティに葉巻を立てたような形の超高層ビルを建てています。しかし最近では、逆にそのような建築物が都市の周辺環境から孤立しているという批判の方が大きくなっています。
同時に、そのヘッドクォーターが内面的にどのような価値を創造できるのか、という観点が重要になってきています。
藤井 そのとおりですね。私どもも、一部の企業と長期的なヘッドクォーターのあり方・再開発コンセプトについて検討する中で、フューチャーセンター、イノベーションセンター的要素を兼ね備えたヘッドクォーターの議論をしています。周辺環境とも調和し、周辺住民やグループ企業、顧客・パートナー企業などとコラボレートして、課題解決を図る動きを促進できるようなバーチャルな「コミュニティ」を、ヘッドクォーターを基点となる「プラットフォーム」と捉えていかに創れるか、という概念が、今後ヘッドクォーターの物理的な見直しにあたっての重要な論点になってくると感じます。
白井 私が通っていたイギリスの大学院では、「コミュニティは誰か」という定義付けにこだわった議論・研究が盛んでした。私自身はコミュニティを捉える場合、企業が想定する「コミュニティは誰か」と考えたときにコラボレーターとエンドユーザーの2つで構成されるという定義を考えています。
一般的には、「コラボレーター=協働する人」で「エンドユーザー=観察される人」と捉えられますが、実はこれが、「エンドユーザーこそが協働する人、コラボレーターが観察する人」というように逆転の発想が起こりつつあるのかもしれません。そこにはエンドユーザーこそが様々なプロジェクトに必要な知見を提供する協働者で、プロジェクトの置かれた現状をプロの視点で観察し、その情報を提供するコラボレーターという構図があるように思えるからです。このような兆候も捉えながらプラットフォームとしてのコミュニティを設計していくことが必要になると考えます。