都市の「パブリックスペース」の可能性

藤井 前回の対談のメインテーマであった都市イノベーションは、まさに都市を「プラットフォーム」と位置付け、企業、行政、住民・NPO等のトライセクターで新たな価値を創っていく実験場とすることで、都市自体の価値を高めていくという発想でした。
「都市」という単位での、新たな付加価値の「創りかた」として注目されているものにはどのようなものがありますか。

白井 1つは、パブリックスペースのイノベーションです。
 藤井さんの考えに全く同意で、都市の価値を高める上で今後重要な視点の1つは、イノベーションのプラットフォームになる、ということだと思います。では現時点でプラットフォームとしての活用が遅れているのはどの部分かと言うと、私はパブリックスペースにあると考えています。
 日本のパブリックスペースは実は、街頭で住民が集まって力道山を見ていた頃から、機能としてほとんど変化していなように思われます。そもそも「パブリックスペース」には、適切な和訳が見当たりません。公共空間や公園とも捉えられますがぴったりはフィットしません。これは、これまで「パブリックスペース」という単位で議論されてこなかったことの証左だと思います。

藤井 重要な視点ですね。パブリックスペースのイノベーションの可能性として、イメージが描ける具体例などはありますでしょうか。

白井 最近、東京の谷中、根津、千駄木(いわゆる谷根千地区)から神保町、秋葉原も含めたエリアの文化資源をどう生かすかという「東京文化資源区構想」にとても興味を持っています。これは谷根千地区の生活資源、東京大学が持っている学術資源、あるいは秋葉原が持っているサブカルチャー資源などをより活用するために、誰をターゲットに、どのような仕組みで、どのようなプレーヤーがするかを考察し、実行していくプログラムです。
 アイデアを発想していく上では、パブリックスペースのありかたが、1つのキーになっており、それをどう使うか、そもそもパブリックスペースとは何ぞや、という概念から問いかけていく必要があります。この活動は東京大学大学院情報学環教授の吉見俊哉先生らが中心となり、多様なバックグラウンドの人が関わっています。例えば上野公園というパブリックスペースに対して、何が問題なのか、管理者が問題なのか、空間の質が問題なのか、などということを観察をベースに思考実験するなど、今後も多くの試みがなされていくと思います。

藤井 パブリックスペースは誰が責任を持って価値の増大を図るかが不明確な点もあり、今後のイノベーションの余地がとても大きい領域ですね。行政の問題もあり中々変化が起こしにくいところでもありますが、オリンピックも契機にモデルケースが創れると本当に面白いですね。
 都市の創りかたに関して、他に注目されている点としてはどのようなものがありますか。

白井 都市のサステナビリティを考える上では、開発だけでなくその後の運用・マネジメントの創りかたの重要性も高まっています。前回の対談でも議論に挙がりましたが、そのような中でキープレイヤーとして期待されるソーシャルセクターにも注目しています。

藤井 ソーシャルセクターが都市の運用・マネジメントを担って成功している例としては、米国のポートランドなどが代表例として挙げられますね。

白井 企業(ビジネスセクター)は業績によって取り組みに波が出てしまいますし、行政(パブリックセクター)は担当者が頻繁に替わり、本当の意味で長い間、1つの都市に関わっていくことは難しい。誰が本質的にロングランで都市をまわしていけるのかと考えると、やはりソーシャルセクターに期待がかかります。
 もう1点、「解像度」という言葉をよく使いますが、行政や企業が見る解像度には限界があります。すなわち街角レベルまでは行政も企業もなかなか目が届かない。例えば街角のコーナーのパブリックスペースの価値をどのように上げていくか。ここを担うべきはソーシャルセクターだと思います。