日本企業の多くは、経営理念は存在しているものの、それらが個人の行動規範や人事制度などのルールに落とし込まれておらず、日常活動でも定期的に共有されていなかったり、繰り返し反復されるまでは至らなかったりするために、理念が風土として根づかないケースもよく見られる。

 実際に多くの企業では、経営理念を唱和する、特に製造業の場合は工場などでは朝会の実施、理念や行動規範を読み合わせは過去から実行されているが、それらを個々人のアクションレベルまでの落とし込むまでの取り組みは行われていないことがほとんどだ。

 例えば、GEでは、組織が時代を先取りして変化していくために新たに定めた「GEビリーフス」という新たな価値観を掲げて、それを浸透させるために個人レベルで具体的なアクションを設定し、その行動や姿勢がとられたかどうかを人事評価で業績成果と同等レベルで評価するというところまで落とし込んでいる。また、それを毎年PDCAのマネジメントサイクルにつなげて実践することで継続性を持たせ、組織の価値観を個人レベルで浸透させようとしている。

 こうした理念を行動レベルまで落とし込んで制度ルールに織り込み、PDCAサイクルにつなげていることが大きな違いである。

 またデュポンでは、コアバリューの行動への落とし込みが徹底されている。例えば、コアバリューの1つである「安全」であれば、求められる行動規範のマニュアルに詳細が定義され、すべてのミーティングの一コマを意識確認の時間に割くなどといった“場づくり”と併せて、個々人の行動レベルまで価値観が深く浸透している。また対応状況は月次でグローバルレベルでレポートされ、違反した場合はペナルティも科される徹底ぶりである。

 これらの先進的なグローバル企業は、風土醸成における価値観の浸透プロセスについて、マネジメントシステムを活用し、システマティックに進めていることが特徴的である。また対人的なコミュニケーションについて、組織としてオフィシャルな形で積極的に促進するような工夫が随所に見られる。

 日本企業の多くは、歴史的には経営理念は明確に存在するものの、公式・非公式を問わず人的コミュニケーションの蓄積を通じて暗黙的に浸透させているケースが多い。一方、グローバル企業は、ルールや評価の仕組みを活用して見える形にする必要性が歴史上高かった背景もあり、多国籍で異文化のメンバーに対して共通の価値観を浸透させるために、多くの仕組みを通して価値観を個々人の行動レベルに落とし込み、継続的に運用するといったアプローチをとる。

 今後組織がグローバル化していく中では、こうした取り組みが一層求められるだろう。

 このような理念や価値観を個人の行動レベルに落とし込むことの徹底度の違いが風土醸成に強く影響をもたらしている。風土は、個人の行動に落とし込まれるのと同時に、組織として共通の成果や効果などの成功体験を共有すること、その体験の積み重ねや成果の共有というプロセスを経て醸成されるものである。