変化を促す3つの挑戦

 自己変革を続けてきた企業は、自ら変化を促す風土醸成への挑戦をしている。そこでの象徴的なキーワードは、次の3つになる。

1.変化を良しとする文化

 自己変革できる組織には、変化することを前向きに捉える価値観が根底に存在しなければならない。さらには、時代の変化を先取りするという意味で、より積極的に変化を仕掛けていくことを志向するものでなければならない。

 激変の半導体業界で生きる東京エレクトロンの東哲郎氏は、社長就任時に従業員に「“変化を厭わない文化”の必要性」を訴え浸透させてきた。東氏は「変化を良しとする文化」の秘訣についてこう語る。

「自ら変化することを良しとする文化には、言いたいことを言い合えるような風通しが良い風土が必要です。コミュニケーションは、上から下には水みたいに流れていきますが、下から上にはなかなか難しい。そこは経営トップや幹部が、常に門戸を開いて、話を聞きたいという姿勢を示さないと情報は入ってきません。社員の良さを引き上げていく雰囲気を作っていくことが必要です」

 リーダーが自ら、風通しを良くするために動いて働きかけることは大きな役割を果す。加えて、東京エレクトロンでは、変化や新しいことへ挑戦を促す考え方が、報酬制度や人事評価の仕組みに反映し浸透を図っている。

2.褒める文化

「褒める文化」は、変化を称えることで組織メンバー相互の信頼関係を強め、さらなる変化への挑戦を継続するモチベーションを高めることが期待できる。それは自己変革を持続させる風土醸成の基盤になる。

 ヤマトグループでは、企業風土において近年変化した点がある。それは、「厳しく鍛える文化」から「褒める文化」への変化である。同社が行っている「満足BANK」は「褒める文化」を作るための仕掛けの1つである。風土に合った仕掛けをすることで、それが成功し組織として自信になれば、さらに新しい風土は広まり発展していく。

「満足BANK」は、社内イントラネットを活用して、社員がお互いの良い点や感謝したい点などを記名式で書き込みをし、褒められた人も褒めた人にもポイントを与え全社的に称え合う仕組みである。この褒める文化を推進してきた木川氏はこう考えていた。

「褒めることは、叱るより相手を観察しなければならないので難しい。しかし相手と褒め合うことができれば、仲間意識は高まり社員同士の絆は深くなる」

 組織のメンバー相互に関心を持ち、長所を称えあうことができる土壌があることは、顧客満足を得るための時代を先取りした新しいチャレンジに対して、互いに足を引っ張ることなく組織として後押しする力になり、変革を持続させていく原動力になる。

3.失敗を許容し挑戦を促す文化

 不確実な時代に確実に成功する術などは存在しない。仮に結果的に失敗したとしてもリスクをとって挑戦することに対して、一定の価値を置く考え方が求められる。つまり、何かを持続的にやり続けるには、失敗しつつもその次にどうやって成功させるか、機動的な方向転換と成功するまでやり続ける行動を貫くことに価値を置き、失敗を許容する必要がある。従来型の日本企業の多くに根強く残っている減点主義とは考え方を異にする。そう簡単に答えが見つからない中では、最終的には成功を追求するものの、いかに失敗したのか、またそれを解決したのか、挑戦するプロセスに重きを置く発想が大切だ。

 自己変革できる組織の風土には、「変化を良しとする」「リスクをとって挑戦する」「お互いを称えあう」といった価値観が望ましい。そうした価値観を風土として定着させるには、最終的には個人レベルの意識まで浸透し、変わらなければならない。「失敗を許容する風土」は、自ら変わろうとする個人レベルの心理的側面での妨げとなりうるリスクを許容し、それに踏み出すための小さな勇気を後押しするきっかけを与えているのである。

一人ひとりに宿る“3つの連鎖”

 自己変革を継続できる組織においては、断絶を乗り越えて「3つの連鎖」を組織全体のメカニズムとして織り込んでいくことに加え、究極的には変革リーダー一人ひとりに「3つの連鎖」が内在することが、変革の原動力となる。組織であっても個人であっても、自ら変化を持続していくことは容易ではない。それを実現するためには、己の中に「3つの連鎖」を持つことだ。個人一人ひとりの自己変革が連鎖することで、組織全体の自己変革が可能になる。すなわち、何よりも先に行うべき変革は、自分が変わることである。

 組織を構成する個人レベルで、「先、外、内」の3つの要素を考え、一人ひとりの“自己変革の連鎖“が生まれてこそ、真の意味で組織全体が自ずと自律的に変わり続けていく組織になっていく。

「明日を我が事として語れる」そんな一人ひとりが連なる組織。持続的成長に向けた自己変革を継続できる組織とは、変革リーダー一人ひとりの自己変革から始まるのである。
 

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