問われるのは、どんな社会をつくりたいのかというビジョン
――職人の匠の技を含めた現場の技術が人工知能のロボットによって自動化されれば、日本のものづくりの強みも、雇用も失われることになりませんか。

人工知能には目的を与えなければなりません。工場に入ってきた新人に技術を伝授するように、匠のノウハウを教え込むことが必要です。たとえば、作物をどんなふうに植えれば、よく育つのか。植え方と成育状況のデータを取ってPDCAサイクルを回せば、そのノウハウを構築できるかもしれませんが、かなりの歳月が必要です。経験豊富な職人のノウハウを使えば、最初から適切な目標設定ができるようになります。当面は、職人の重要性は残るでしょう。ただ、職人の仕事を人工知能ロボットで代替することは避けられないと思います。
好むと好まざるとにかかわらず、自由経済競争の世界では、その流れを止めることはできないのではないでしょうか。日本はITの領域では米国に遅れをとっているかもしれませんが、ロボット技術の研究はかなりの歴史があり、先行しています。雇用を守るために人工知能を規制するよりも、日本はその強みを生かし、人工知能ロボットを新たな産業として発展させていくことを考えるべきでしょう。
――電気自動車メーカーのテスラ、宇宙企業スペースX社CEOのイーロン・マスク氏や、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング氏ら著名な実業家、科学者が人工知能に対する懸念を表明しています。
生命と知能を混同すべきではないと思います。自分を守る、仲間を増やす、子孫を残すといった自己保存を目的にする生命に対し、知能は与えられた目的を実現する力です。知能が発達すれば、自己目的を持つようになって人間の脅威となるという考えは飛躍しすぎています。
ただし、与える目的によっては人工知能が悪用されるおそれがあるのは事実です。我々はどんな社会を築きたいのかという目的をこれまできちんと議論してきませんでした。しかし、これからは人工知能の発達によって、持続可能な社会のために、持続可能な資源消費量の範囲を守り、その中で生産を最適化するといったことを緻密にコントロールできるようになります。我々はどんな社会を目指すのか、そのために人工知能をどう利用するのかについて、明確にしていく議論をしなければなりません。
――ご自身は、どのような社会を目指して、人工知能を利用していくことになると考えていますか。
個人的な考えですが、人は生物である以上、種を後世に残そうという目的を持っているはずです。そのために人は助け合い、協力する社会性を持ち、多様性を維持することで、環境変化を受けても、種として生き残ろうとしてきました。これからの社会も究極的に志向されるのは、この方向性だと考えています。人工知能を利用すれば、持続可能な社会に向けて、どのくらいまで資源を消費してもいいか、という制約条件の下で、何をどれくらい生産するのが最適なのかも予測できるでしょう。それにより、よりきめ細やかな制度設計も可能になると思います。
(構成/新木洋光 撮影/三浦康史)