IoT、ビッグデータ、AIをはじめとしたデジタル技術の担い手にはベンチャー企業も多い。ベンチャーキャピタルは、昨今のデジタル技術の進展をどう評価し、どのような観点からベンチャー企業を選別しているのか。国内外の技術ベンチャー企業に対し、投資・支援活動を行っている伊藤忠テクノロジーベンチャーズの代表取締役社長、中野慎三氏に伺った。

ITそのものからアプリケーションに変わってきた投資対象

――IT業界に特化したベンチャーキャピタルとして、どのような観点から技術を評価しているのですか。

中野 慎三(なかの しんぞう)
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長
1989年、伊藤忠商事入社。1990年代前半よりITOCHU Technology Inc.(Santa Clara, CA)でベンチャー投資事業に携わる。2000年に伊藤忠テクノロジーベンチャーズを立 ち上げ、パートナーとしてベンチャー企業への投資およびハンズオン支援に従事。 ITOCHU Technology Inc. SVP&COO、伊藤忠商事情報通信戦略室長、同情報産業ビジネ ス部長などを経て。2015年より現職。

  ITと一括りにいっていますが、その中身は時代とともにずいぶんと変わっています。それに応じて私たちの投資対象も変化しています。たとえば、当社が設立された2000年はITバブルの絶頂で、インターネット関連の技術はまだまだ発展途上でした。毎年のように新しい技術が生まれていたので、いわゆるITそのものに対する投資が多く、ソフトウェア・アプリケーション、ハードウェア、または半導体の会社に投資するケースもありました。

  しかし、いまではネット技術は行きわたりました。業界用語では「枯れてきた」といいますが、ITはすっかり枯れて社会インフラになってきたので、もう天地がひっくりかえるような変革は起きないでしょう。これからは、「IoTによって製造現場が変わる」「電子カルテによって病院が変わる」といった具合に、各業界それぞれにITによるイノベーションが起きるという時代に入ってきたわけです。

  それに伴って、私たちの投資先もITというよりはアプリケーションに移ってきました。ドローンを例にすれば、ドローンの開発そのものではなく、「ソーラーパネルの監視に使う」「人の入れない現場を空撮する」といった、ドローンを使ったアプリケーションが投資対象になってきました。

  どんなアプリケーションが何を解決できるのかは、実際、その分野やその業界をよく知っている人しか判断できません。そういった意味で、商社系列のベンチャーキャピタルであることは大きな強みになっています。商社にはあらゆる業界の担当者がいるので、各案件が実際に問題解決につながるのかどうか確認できるわけです。「こんなものが売れるほど世の中甘くない」と厳しい指摘を受けることもしばしばです。