ガバナンスはプリンシプル
永遠に正解もゴールもない

 組織は責任と権限のバランスの上に体系づけられている。だが、時にそのバランスが崩れ、責任が明確に問われない権力構造を生み出してしまうことがある。過去の企業不祥事も、権力による独走が根本的な発生要因となっているように思われる。ゆえに、「責任の伴わない権力が生まれない仕組みをつくること、それこそがガバナンスなのです」(北爪氏)。

 多くの権限を持つCEOのポリシーや考え方をきちんと監督し、あるべき方向に進むよう支援・指導する。それができるのは制度的には取締役会しかない。だからこそ、「ガバナンス向上の核心は取締役会改革にあります」と北爪氏は断言する。

有限責任監査法人 トーマツ パートナー
松下欣親

「コーポレートガバナンス・コード(CGC)が求めているのは、会社のプリンシプル(信念)であり、プリンシプルを貫くために経営陣および取締役が最善の努力を続けることです」とトーマツの松下欣親氏は説明する。

 法令ならば順守することが重要だ。しかし、法令が定めた最低限の要求を満たしただけでは企業の持続的成長にはつながらない。株主をはじめとするステークホルダーから企業のマネジメントを付託された経営陣や取締役が持続的成長と企業価値向上のために最善を尽くす、その歩みにゴールはなく、唯一最短の道もないのである。

「CGCには持続的な成長を目指すために一般的に実効性があると考えられる主要な原則がまとめられています。しかし、企業によって置かれている状況は異なるわけですから、正解はありません。自社にとってよりふさわしい方法があれば、経営陣が自らの判断でそれを実践し、その理由をステークホルダーに説明する。それこそCGCが採用する“コンプライ・オア・エクスプレイン”というアプローチです」(北爪氏)。つまり、CGCは、敷かれたレールの上を歩むのではなく、自ら道を切り開く姿勢を求めているのだ。

 そのためにも、取締役会はステークホルダーの視点で議論する必要があり、取締役会の議題はステークホルダーの期待に合致しているかを問い続けなければならないのである。