深層防護とは何か

――「深層防護」というのは、原子力発電所の安全を守る仕組みのことですね。しかしその具体的な内容は、となるときちんと説明するのは難しいです。

「深層防護」は、現在世界で標準とされている、原子力施設の安全確保のための基本思想です。

 1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故、1986年のソ連チェルノブイリ原発事故を契機に、世界各国で原発の防護策の再構築が行われました。その結果、1996 年にIAEAの国際標準として「深層防護(Defense in depth)」、あるいは「5層防護」の考え方ができあがったのです。5層とは、<1>異常の発生防止、<2>異常の拡大防止、<3>影響緩和、<4>過酷事故対策、<5>防災対策の5つの層で安全を守るというものです。

提供:岡本孝司・東京大学教授

 86年にチェルノブイリ原発事故が起きる前までは、<1>異常の発生防止、<2>異常の拡大防止、<3>影響緩和」の3層だったのですが、2つの事故の反省に立って、4層と5層が加えられました。

 その意味するところは、3層までは原発敷地内での防護、すなわち「止める、冷やす、封じ込める」という安全対策ですが、それが破られるようなシビア・アクシデントの場合、放射線は敷地外に漏れることになります。その際の地域住民の安全確保が4層と5層の防護となります。IAEAの表現では4層は「事故の進展防止およびシビア・アクシデントの影響緩和を含む過酷状態の制御」で、5層は「放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和」というふうに言っています。少しわかりにくいかもしれませんが、たとえば、ベント(排気)時に放射性物質の放出を最小限にするフィルターの設置などが4層目に当たり、適切に住民を避難させ、被爆後8時間以内に年少者にヨウ素剤を服用させるのなどの活動が5層目の防護となります。

 3.11で、日本ではまさにこの4層、5層の防護が欠落していたことが明らかとなりました。住民は十分状況がわからないまま、避難をしなければならなかったし、避難所を転々とさせられた人も多いです。その過程でお亡くなりになった高齢者もいらっしゃいます。ヨウ素剤が準備してあったにもかかわらず、多くの自治体で子どもたちに投与されませんでした。こうしたことは放射線の直接の被害ではありませんね。避難体制の不手際であり、また指示体制の不手際です。

 3.11後、原子力規制委員会は国際標準になっている「深層防護」を取り入れ、基本にすると発表しました。しかし、「多層」とこれまでの「多重」との防護に関する意味合いの違いなど、十分突っ込んだ形での議論は行われていないようで、いまだに日本では3層までは法律で規制されているが、4層、5層は規制されず、自治体の意思の任されているというのが現状です。5層のシステムが一貫して組み立てられることが実効性を確保するはずなのに、なぜそうしないのか私にはまったく理解できません。