国民医療費は何年から減少に向かうのか

――最後の国民医療費の問題ですが、超高齢化社会で医療費は増大し続けています。いつから減少に転じるかと言われても、減少することをイメージできないのですが。

 多くの人がそうだと思います。その理由は、わが国の超高齢化社会に備えた医療介護総合確保方針が2025年をゴールにしているからでしょう。その方針のもと厚生労働省が推し進める地域包括ケア体制の構築に向けて、いま全国の自治体は2025年までの計画づくりに邁進しており、それ以降の日本の社会のことなど考える余裕がないように見えます。

 確かに、高齢化率は伸び続けています。ただし、高齢化率上昇の理由が、2025年頃を境に変化します。2025年頃までは65歳以上高齢者の数が増えることにより高齢化率は上昇していきます。それ以降は、団塊の世代が80歳を超え始め、高齢者人口が頭打ちになり、その後、減少していきます。一方で、少子化対策がないまま、総人口が減り続けることが止まらなければ、高齢者の割合が増大していくわけです。この、高齢化率上昇の理由の変化が重要なポイントです。

――そうなると、2025年頃をピークとして、65歳以上高齢者の数は減っていくのですから、それ以降は、高齢者の医療費そのものは減っていくのですね。非高齢者の医療費の4~5倍ともいわれる高齢者医療費が減っていくとすると影響は大きいですね。

 そのことに加えて、非高齢者の人口も減っていきますから、こちらの層の医療費の総額も減少していくと予想されます。

 もちろん、いまの医療費の増大は、高齢者人口が増えていくことだけが原因ではなく、医学や医療技術の進歩が医療費増を招いている面もあります。しかし、もうあと10年もすれば、高齢者の数が増えることによる医療費は頭打ちになることは見えていますから、長年心配されてきた国民医療費の伸びも収まると推測できます。社会保障の財政破綻もなんとか回避できる目安が表れてくると思いますよ。もっとも65歳以下の人口が減ることによる税収や健康保険料収入が減っていくこととの取り合いになりますが。

 むしろ危惧されるのは、需要がガクンと落ちることで経営難に陥る病院やクリニックが増えていくことですね。人口構造の推移とともに、医療へのニーズも大きく変化していきますから、その時々の需要に対応するための医療の供給体制をどのように整えるかというのは難しい舵取りが求められるのです。

――2025年の状況を想定しているだけでは、その先の状況は見えてきません。自分が何を知らないかを知らずに目の前のリスクにばかり気を取られていると、違和感や「これ、違うんじゃないか」という発想は湧いてこないですね。そのことがさらなるリスクを生むということになりかねないのですね。

 いま、社会、文化においては、世界中がかつてないペースで相互連鎖しています。その中で、自分が見ているものはその一部分であり、いつどこの何とどんなふうに連鎖が起こるかわかりません。さらに先ほどの話のように、自然哲学においてもあらゆるものをつなぐ統合のメカニズムがいつか解明されるかもしれないとすれば、解明へのプロセスにおいて新しいことが発見されれば、いま当たり前と思っていることが簡単に覆されてしまいます。

 そういう感覚を、発想や思考のベースに備えているかどうかで、課題設定の仕方は大きく変わってくるのです。

(構成・文/田中順子)