「需要サイド」の破壊と
「供給サイド」の破壊

 クレイトン・クリステンセンによる1997年の『イノベーションのジレンマ[注1]』の刊行以来、経営学者は顧客の需要パターンを破壊するイノベーションに焦点を当ててきた。

 たいていは次のような具合だ。ある新規参入者が画期的な製品を開発するが、最初はニッチセグメントにしかアピールせず、従来の尺度では主流製品の後塵を拝するおそれがある。当初、顧客はこのイノベーションを拒絶する。ところが、自分たちにとって関心の高い領域でパフォーマンスが急速に改善されると、製品は次第に受け入れられるようになり、この新規参入者は既存企業にとって大きな脅威となる──。

 この20年間、経営者はこうした「需要サイド」の破壊的イノベーションに対処するための防衛戦略を策定してきた。一番よく見られる方法は、新規参入者を買収する、または破壊的イノベーションの可能性を探る自律的組織を設けて「自己を破壊・革新する」というものだ。つまり、破壊的イノベーションが業界を席巻するようになったら、自社の主力オペレーションに新しい技術を取り込めるよう準備しておき、その過程で自己変革を行うという考え方である。