「人生80年」の時代に第2のキャリアは不可避

 精神分析医で組織コンサルタントでもあった、無名のカナダ人のエリオット・ジャックスは1965年、彼が48歳の時、論文のなかで「中年期の危機」という言葉を初めて使った。ジャックスはその論文のなかで、中年期を迎えると、だれもがおのれの限界や死というものに向き合うようになると指摘した。

 しかし、彼自身の中年期以降の生涯を見る限り、限界とは無縁の印象を受ける。ジャックスはくだんの論文を発表し、2003年に86歳でこの世を去るまでの38年間に、12冊の書籍を著し、アメリカ軍やイギリス国教会をはじめ、さまざまな組織に助言をし、その後30年以上にわたって彼のよき協力者となる女性、キャサリン・ケイソンと結婚し、彼女と共に、自分たちの理論を普及させるためにコンサルティング会社を設立した。

 ジャックスは、ある意味で人生を2倍生きたといえるかもしれない。彼は最初の人生、すなわち40代半ばまでに、医学と心理学で博士号を取得し、精神分析のトレーニングを受け、組織コンサルタントとして、そして精神分析医としてさまざまな経験を積んだ。

 第2の人生では、きわめて独創的な理論家であった。彼が助言する組織の幅はいっきょに拡大し、彼の名を世に知らしめることとなるさまざまな理念や理論を提唱していった。最も独創的な理論は90年代末、すなわち彼が70代から80代にかけて発表したものである。

 ジャックスの生き方について、大方の人は「かくも長い間、生産的でいられるものなのか」という驚嘆の声を上げる。しかし我々は、エリオット・ジャックスのような生き方はけっして例外ではないことを示したい。

 一般に年齢について抱かれるイメージは、まったくもって現実から乖離している。現在の欧米諸国の平均寿命は約80歳で、いまも伸び続けている。

 それからすると、46年から64年までに生まれたベビーブーマー世代の場合、現在の中央値を53歳とすると、あと30年は生きることになる。このことの意味についてちょっと考えてみよう。

 ほとんどの人は、高等教育を終えてから、一般的には20代になって働き始める。平均的なベビーブーマーの職業人生は、ちょうど折り返し地点にあるといえる。平均寿命が延びるに従って、中年期における転身は、多くのビジネスマンにとって不可避なものとなるだろう。