1.マネジャーの労働時間は、部下の意欲に関連する

 週当たりの労働時間の代用データを得る指標として、我々は「稼働時間」と「残業時間」を用いた。稼働時間は基本的に、1日の最初と最後のメールまたは会議の間の平均時間を数ヵ月分参照し、各従業員の週合計労働時間を見積もった。これは完全な指標ではないが、働き方の方向性を知るには十分だ。残業時間は、従業員の標準的な勤務時間(一般的に午前9時から午後5時)以降にメールや会議に費やされた時間である。

 これらのデータによると、稼働時間で上位4分の1に入るマネジャー、つまり労働時間が最も長いマネジャーの下で働く部下は、そうでない上司を持つ部下よりも19%長く働いている。これはおそらく、驚くに当たらないだろう。より驚くべきは、労働時間が長いにもかかわらず、彼らの意欲は労働時間が短い従業員よりも、むしろ5%高いということだ。

 かたや、稼働時間が下位4分の1に入るマネジャーの下で働く部下の意欲は、平均より2~4%低いこともわかった。これが意味するのは、自分と少なくとも同じ時間働いている上司を持つ人は、より意欲が高いということである。

 2.ただし、マネジャーは仕事量を平等に分配する必要がある

 上記と同じ指標から、労働時間が他のチームメンバーより長い従業員は、意欲を失いやすいという傾向がわかった。具体的には、稼働時間が同僚よりも120%長い非管理職者は、意欲が低い傾向が33%高い。そして彼らは、自分も他のメンバーも同じように稼働時間が長い人に比べ、上司に不満を持っている傾向が2倍であった。

 この結果は直感的に理解できる。チームメンバーや上司が5時にさっさと退社するのを横目に、独り居残って残業していれば不満が募るだろう。場合によっては、部下が残業をみずから申し出ることもあるだろうが、仕事をメンバーに均等に割り当てるのはマネジャーの重要な役割だ。不公平な割り振りが部下のやる気の減退につながるのは、この調査結果で一目瞭然である。

 3.優れたマネジャーは、社内全体で幅広い人的ネットワークを持っている

 従業員のネットワークの規模を測るに当たっては、他の従業員との間に積極的に維持しているつながりの数を基準とした。「つながり」を定義づけるために我々が使った主なアルゴリズムには、頻度と親密度の閾(しきい)値がある。わかりやすく言うと、「つながりを維持している」と見なされるには、相手と月に2回以上、メールのやり取りあるいは出席者5人以下の打ち合わせをしていなければならない。これにより、ある従業員が実際に定期的な協働をしている相手の人数を、ある程度正確に測ることができる。

 その結果、より広範なネットワークはさまざまなプラスの業務成果と相関関係があることが、一貫して示された。相対的に広い社内ネットワークを持つマネジャー(上位4分の1)の直属の部下は、そうでない従業員よりも意欲が5%高い。そして彼ら自身も、ネットワークが狭いマネジャーの部下に比べて、最大85%も広いネットワークを持っていた。

 さらには、ネットワークが狭いマネジャーは、チームに明らかに負の影響を及ぼしうることもわかった。上司より110%以上広いネットワークを持つ部下は、そうでない部下に比べて意欲がない傾向が50%高く、上司に不満を抱いている傾向は2倍だ。

 その一因はこう解釈できる。部下は上司を、社内の他チームとの調整役として頼っているのに、上司が十分に広いネットワークを持っていなければ、その役割を効果的に果たすことができないわけだ。上司より広いネットワークをすでに持っている部下は、上司との関係にさほど価値を見出せず、序列をより窮屈に感じることになる。

 4.1対1のコミュニケーションは常に重要である

 マネジャーが直属の部下と1対1で打ち合わせをした実時間は、日程表に記入された会議への「参加依頼」を基に数値化できる。分析対象の企業では、平均的なマネジャーは各部下と3週間おきに、30分間の打ち合わせをしていた。意外ではないと思うが、マネジャーと滅多に、またはまったく1対1の時間を持たない部下は、意欲がない傾向が高かった。かたや、1対1でマネジャーと話す回数が平均よりも2倍多かった部下は、意欲がない傾向が67%低かった。

 我々はまた、上司と部下で過ごす時間が一定量を超えて多すぎると意欲が下がるのではないか、という仮定も検証した。しかし、今回のデータではそのような転換点はわからなかった。

 では、上司が部下と1対1で話す時間をまったく設けない場合、またはオンザジョブ・トレーニングの提供を怠った場合はどうなるのだろうか。こうした境遇の従業員は、非管理職者全体に比べ、意欲がない傾向が4倍高い。そして定期的に上司と会う人に比べ、上司に不満を持っている傾向が2倍であった。

 5.マネジャー自身の意欲が部下の意欲を高める

 意欲がないマネジャーの下で働く部下の意欲喪失率は、意欲あるマネジャーの部下よりも最高で2倍であった。この事実は、上司が部下の意欲に大きな影響を及ぼすというギャラップの調査結果を裏づけるものだ。また、全社的に意欲を高めたいと真剣に考えている企業にとって、まずマネジャーに注目することから始めるのが賢明であるという証左にもなる。

 ギャラップの見積もりによれば、お粗末なマネジメントは米国経済に年間最大3980億ドルもの損失をもたらすという。従来は客観的なデータが不足していたので、企業がマネジャーの質を測るのは難しかった。したがって、マネジャーの質を向上させるための効果的な教育と継続的なフィードバックを提供することは、さらに困難だった。

 優れたマネジャーの特性の一部を、日常で実践可能な形で明らかにした我々のデータは、それを打開するきっかけになるだろう。そして、組織運営と従業員の生活の質を高める大きなチャンスにもなる。

 最も成功する企業は、最高のマネジャーがいる企業である。この事実は、今後もおそらく変わらないはずだ。


HBR.ORG原文:What Great Managers Do Daily December 14, 2016

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ライアン・フラー(Ryan Fuller)
ピープル・アナリティクスの先駆的企業、ボロメトリクスの元共同創設者兼CEO。同社は2015年にマイクロソフトが買収。現在はマイクロソフトで、企業にアナリティクス能力を普及させるビジネス部門を率いる。以前はベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントを務めた。

ニーナ・シカロフ(Nina Shikaloff)
マイクロソフトのシニア・プログラムマネジャー。ワークプレイス・アナリティクスを駆使して、組織効率と人材マネジメントの向上に関する実践可能な知見をフォーチュン500企業に提供している。以前はFICOおよびInfoCentricityでアナリティクスのコンサルティング、研究開発、製品管理を統括。