仕事と幸福度の関係を、職種や地域ごとに多面的に分析した「世界幸福度リポート」の概要を紹介。個々人の仕事における幸福は、企業業績や国家経済とも相関すると本記事は結論づける。
ほとんどの人は生活の多くの部分を働いて過ごしている。したがって当然ながら、仕事は人の幸福度に大きな影響を及ぼす。
我々は「世界幸福度リポート」の最新版において、仕事と幸福の関係をより詳しく考察している。これは国連が定めた国際幸福デーに合わせて毎年発行されるものだ。
ここで大いに参考としたのは、ギャラップが2006年以降行っている、世界150ヵ国の人々を対象としたアンケート調査である。同社の取り組みによって我々は、世界中の数十万人から得られたデータを分析し、労働生活の諸要素が心身の健康(wellbeing)にどう影響しているかを探ることができている。
主観的に判断される心身の健康(しばしば大まかに「幸福」と呼ばれる)は、複数の側面から測定できる。我々がまず着目したのは、生活の質を総合的に自己診断する「キャントリルの階梯」の結果だ。これは(生活における7つの要素を)最高から最低までの11段階で測るギャラップの尺度で、回答者に自分が現在どの段階にいるかを尋ねる。
この他にも我々は、人が日々の生活で経験する正負さまざまな感情状態(楽しみ、ストレス、心配など)に着目。さらに、より職場固有の尺度として、仕事の満足度や従業員エンゲージメントなどへの回答も分析した。
●最も幸福度が高い職種はどれか
ギャラップの世界調査では大きく11の職種が設定されている。自営業、オフィスワーカー、マネジャー、農業、建設、鉱業、運輸などから成るこの分類はさまざまな職をカバーしている。どのグループの労働者が、一般的に幸福度が高いのだろうか。
我々が最初に気づいたこととして、ブルーカラーの仕事に従事する人々は、世界のどの地域でも全体的な幸福度が低めであった。これは、建設、鉱業、製造、運輸、農業、漁業、林業といった労働集約的な産業に広く当てはまる。マネジャー、幹部、公務員、または専門職の人々は、生活の質を10段階評価で6強と自己評価したのに対し、農業、漁業、林業の従事者は平均で4.5程度であった。
この構図は、総合的な生活満足度についてのみならず、日常における個々の感情経験についても見られる。ホワイトカラーの労働者は概して、微笑む、笑い声をあげる、楽しみを感じるなどのポジティブな感情状態の報告が(ブルーカラー労働者に比べ)より多く、心配、ストレス、悲しみ、怒りといったネガティブなものはより少ない。
こうした記述統計は、職種間の幸福度の差異をそのまま表している。もちろん、これらの多様な分野で働く人々の間では、異なる要素が数多くあるはずで、それが幸福度の差異につながっている可能性はある。だが意外かもしれないが、所得や学歴、年齢、性別、婚姻関係といった多くの人口属性上の差異を考慮に入れて推定を調整しても、この構図はほぼ変わらないのだ。
●自営業は複雑
自営業と心身の健康との関係は多面的である。世界の平均値を見ると、自営業者はフルタイム従業員と比較して、全般的に低めの幸福度であることがわかる。だがフォローアップ分析からは、この結果が地域によって、そして主観的幸福度の項目によって大きく左右されることが示されている。
ほとんどの先進国では、自営業は総合的な生活満足度の高さに相関し、同時に日々のストレスや心配などのネガティブな感情もより多い。きっと事業主ならば誰であれ、自営業が見返りもストレスも大きいことなどよくご存じだろう。
●失業は不幸の源
幸福の経済学に関する最も確固たる知見の1つは、失業が心身の健康を損ねることだ。これは世界中で当てはまる。就業者は失業者と比較して、生活の質を概ねはるかに高く評価している。また、失業者は日々の生活におけるネガティブな感情経験を約30%多く報告している。
職に就いているという事実は、給与よりもはるかに重要だ。働くことの非金銭的な側面は心身の健康を大きく左右することが、大量の研究により示されている。社会的地位、社会関係、1日の過ごし方、目標などの諸々が、人々の幸福に強く影響するのだ。
失業者は通常、就業者よりも不幸せであるだけではない。人は一般的に、「時が経っても失業状態には順応しない」ことが我々の分析からわかった。さらに、失業期間を経ることは、職をふたたび得たのちにも心身の健全に「傷」を残すようだ。
失業経験は当事者に大きな打撃を与えうるが、周囲にも影響を及ぼす。家族や友人がもちろんその典型であるが、影響はもっと広範に波及する。失業率の高さは人々の雇用不安を煽ることが多いため、まだ職がある人の幸福度にまでマイナスの影響を及ぼすのだ。