●世界における仕事の満足度
ここまでは、人がみずからの生活を総合的にどう評価・経験しているかを論じてきた。だがもっと具体的な、職場における心身の健康に関する尺度、たとえば仕事への満足度などに関してはどうだろうか。
ギャラップの世界調査では回答者に、自分の仕事に満足しているか否かを尋ねている。「満足している」と答えた回答者の割合のほうが「満足していない」よりも高かったのは、南北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド。なかでも、第1位のオーストリアでは95%の回答者が仕事に満足していると答え、ノルウェーとアイスランドが僅差で続く。このギャラップ調査では、個人の仕事の満足度と生活満足度との間に、ある程度の相関性(0.28。完全相関は1.0)が見られる。
一部の社会ではなぜ他の地域よりも仕事の満足度が高いのか。我々はその理由を見出すために、欧州社会調査によるもっと詳細なデータに目を向けた。ここでは従業員の幸福に関連する特定の職場要因が明らかにされており、仕事の質に関するさらなる情報がわかる。予想通り、報酬の多い仕事を持つ人は幸福度が高く、生活と仕事への満足度も高い。だが、仕事におけるその他多くの側面も、幸福のさまざまな尺度と強く関連している。
ワークライフバランスは、幸福に関する特に強力な予測因子であった。その他の要因には、仕事の多様さ、新しいことを学ぶ必要性、個々の従業員が享受できる自由裁量のレベルなどがある。さらに、仕事の安定性と社会関係資本(個人が同僚から受けるサポートにより測定)も、幸福と正の相関性を示している。一方、健康や安全のリスクをともなう仕事は、心身の健全にマイナスとなっていることが多い。
仕事の満足度でランクが高い国々は、このような非金銭的な職場要因に配慮することで質の高い仕事を提供している、というのが我々の推測だ。
●職務満足度の高さとは裏腹に、エンゲージメント(意欲)は低い
ギャラップの世界調査では、個人が自分の仕事に「強い意欲を持っている」「意欲を持っていない」、あるいは「仕事が嫌い」と感じているかを質問している。これらのデータは、比較的高い職務満足度とは対照的に、はるかに殺伐とした状況を示している。「強い意欲を持っている」と答えた人の割合は概して20%未満で、西ヨーロッパでは10%程度、東アジアではもっと低い。
世界的に見られる職務満足度と従業員エンゲージメントの開きは、1つには測定上の問題もあるかもしれない。だが他にも、これら2つの概念は仕事における幸福の異なる側面を測定しているという事実にもよる。
職務満足度は、仕事への「自己満足」にすぎない場合もあるだろう。しかし(強い)従業員エンゲージメントとなると、個人は仕事に前向きに没頭し、組織の関心事を前進させるべく全面的にコミットしている必要がある。したがって、従業員エンゲージメントを高めるほうが、より困難なハードルなわけだ。
本稿では、仕事と職が人々の幸福にどう影響するかに焦点を当てている。ただし、幸福と職の関係は双方向に作用する複雑でダイナミックなものであることも留意すべきである。
実際に多数の研究によれば、仕事と職は人の幸福を左右するだけではない。幸福そのものが、労働市場での所得増加、仕事の生産性、そして企業の業績にまで寄与しうることが示されている。つまり、仕事での幸福は単なる個人的な問題ではなく、経済にも関わるのだ。
HBR.ORG原文:Does Work Make You Happy? Evidence from the World Happiness Report March 20, 2017
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ヤン・エマニュエル・デ・ネーブ(Jan-Emmanuel De Neve)
オックスフォード大学サイード・ビジネススクールの准教授。経済学と戦略を担当。世界幸福度リポートの共同編集者も務める。
ジョージ・ウォード(George Ward)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントにあるワーク・アンド・エンプロイメント研究所の博士課程学生。