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医師をはじめ看護師に1人1台体制でスマートフォンを配布するなど、先駆的にICT化を推進する東京慈恵会医科大学附属病院。医療関係者間コミュニケーションアプリや患者向け病院アプリなど矢継ぎ早に開発・導入を進めるなど、国内外から高い注目を集めている。一連のプロジェクトをけん引するのが先端医療情報技術研究講座を担当する髙尾洋之准教授だ。これまでの取り組みと今後の展望を聞いた。
遠隔医療支援アプリの導入で医療費、入院日数を削減
――2015年に3000台を超えるiPhoneを導入するなど、東京慈恵会医科大学附属病院における医療のICT化をリードしてきました。これまでの取り組みについて伺います。

iPhone導入は、慈恵医大の院内インフラをそれまでのPHSからスマートフォンに刷新するのが目的でした。背景には、スマホの普及とデジタル技術の進展があります。言うまでもありませんが、スマホは携帯電話とは異なり、通話以外にも多くの機能があります。インターネットやメール、SNSによるコミュニケーション、動画や写真の撮影、さらにはクラウドとつながって膨大な情報を記録・確認することができます。持ち歩きのできるコンピューターを、いまや誰もが持っていることの意義は大きく、ICTを活用した医療を考えるときに、スマホは欠かせないものです。
スマホに合わせて導入したのが医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」です。慈恵医大がベンチャー企業のアルムと共同開発し、単体の医療用スマホソフトウェアとして保険適用第1号の認定を受けたアプリです。チャット機能を持ち、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの医用画像や、手術室内の映像をリアルタイムで共有することが可能です。たとえば患者が緊急搬送された場合、当直医がその病気やケガの専門医でなくても、「Join」を使うことで専門医とコミュニケーションをとり、適切に処置できるようになります。
いわば医師間の遠隔医療(D to D:Doctor to Doctor)を支援する「Join」の導入は、脳卒中などの緊急性が高い医療現場で大きな効果をもたらします。実際、脳卒中治療の実績に基づいて「Join」の有用性を数値化したところ、診断時間は40分削減、直接的医療費は8%削減、入院日数は15%削減できるという結果になりました。
――医療関係者のコミュニケーションツールをスマホに切り替えたことで、ほかにどのような効果がありましたか。
看護師の働き方が変わりました。スマホ導入以前は、ナースステーションに限られた台数のPHSが配備され、個々の看護師はポケベルを利用して連絡を取っていたのです。病室の患者とナースステーションの間では通話ができるものの、駆けつける看護師と患者は直接会話ができず、患者の詳しい状況が事前にわかならいという問題がありました。新たに導入したナースコールシステムとスマホを連携させることで、患者と看護師の双方向コミュニケーションが可能になり、適切かつ効率的なケアは看護師の負担軽減にもつながりました。

